韓国人の両親の元、NYで生まれ現在もNYを拠点に活動するYaejiは、「クゲアニヤ~クゲアニヤ~」という自身による韓国語のフックが中毒性の高い”drink i’m sippin on”やミニマルなサウンドとフラットなボーカルが見事に溶け合った”Raingurl”、さらにはDrakeの”Passionfruit”のハウスマナーに沿ったリワークなどを収録した、2017年型エクレクティックサウンドの最先端といった『EP 2』で一気に今年下半期の話題をさらった。そんなYaejiが渋谷・WWW/WWW Xのカウントダウンパーティーのために緊急来日する。
プロデューサー、シンガー、さらにはジャンルレスなDJとしての顔を持つYaejiだが、元々はコンセプチュアルアートや絵画を学び、自身でミュージックビデオの制作も行っている。
1人で音楽制作だけではなく、ビジュアル面も作り上げられるDIYアーティストであるYaejiに、中学の同級生であり親交の深いYonYonが話を聞いた。
取材:YonYon(BRIDGE)
取材協力 : WWW
– あなたの音楽にはハウス・テクノなどダンスミュージックから、ヒップホップ・R&Bなど様々な音楽からの影響を感じるけど、元々は韓国のインディーミュージックシーンとも交流があったんだよね。どのような音楽遍歴を辿ってきたの?
Yaeji – 大学生の時にアンダーグラウンドな音楽に触れることになったかな。正直それまでは音楽をたくさん聴いてきた訳でもないし、楽器を弾いてきた経験もなかった。自分は美術系の人間だと思っていたし、ピッツバーグのカーネギーメロン大学に在学していた頃には、絵画やコンセプチュアルアートが専攻だった。課外活動として大学のラジオ (WRCT)に関わることで、周りの友人がアンダーグラウンドミュージックを聴いたりDJをしていたから、自然な流れで初めて電子音楽に触れ、DJと楽曲制作に興味を持って。
あと大学の近くにHot Massというクラブがあって、そこがアメリカではかなり有名なゲイクラブのうち一つだった。Gay Bath Houseといって、ゲイ達が集まるサウナなんだけど、サウナの地下がクラブになっていて。世界中から著名なテクノDJ達がプレイしに来たり、ピッツバーグでは唯一のAfter hours club(昼頃まで運営しているクラブ) だったんだよね。そこが私にとって初めてのクラブ。それ以外には、Via Festivalという音楽フェスを友達が運営してたんだけど、そこで初めてライブを観るようになった。あとはなんだろう。たまに韓国の実家に帰る時にはYonYonちゃんとも行ったけど Cakeshopに遊びに行ったり、そこから色々韓国のアーティストを紹介してもらったり。 でもやっぱり原点は大学のラジオかな。
– WRCTでの経験は、あなたをどのように変えましたか?
Yaeji – WRCTは、私が通っていた大学の地下にあるラジオ局なんだけど、校内だけでなくピッツバーグの住民なら誰でも聴けるようなチャンネル。
コミュニティーメンバーという制度があって、在学生だけでなくピッツバーグに住んで いる地元のローカルDJとかも、地下の教室に来てDJしてたんだ。私がすぐに音楽への恋に落ちたのも、このラジオのおかげで音楽を自由に聴いて選曲できる環境が整っていたからだと思う。周りはテクノを選曲する人が多かったけど、当時の私はSoundCloudで発見した新しいビートやヒップホップ, R&B に興味を持つようになって、どちらかというと四つ打ちよりかはアーバンミュージック寄りのDJだったよ。
– 大学を卒業してからは、ピッツバーグからニューヨークへ拠点を移したよね。何がきっかけだったの?
Yaeji – ピッツバーグは大学進学の為にしばらく行っていただけで、生まれはニューヨークだったし、その後ロングアイランド、アトランタ、日本、韓国へとたくさん移り住んでたのだけど、やっぱり故郷であるニューヨークについてもっと知りたくて結局戻ってきた。ニューヨークに移ってからは、私が好きな音楽を実際に生で聴けることが新鮮で嬉しくて、週に4回はブルックリンのクラブに通ってたかな。ニューヨークでの最初の1年は、ライブを観に行くのに忙しくてあっという間だったね。
– ここまで話を聞いてみると、今のスタイルにたどり着くのに周りの友人の影響がかなり大きい気がする。
Yaeji – そうだね。それは今も変わらない。周りの友達がみんな音楽を作ったりDJをしたりする子が多かったから。それぞれ違うジャンルの人に囲まれながら、私が作る曲の内容や、音楽のスタイル一つ一つに影響を受けたかな。 実はYonYonちゃんのDJスタイルにもかなり影響を受けたんだよね。数年前、Cakeshopでのプレイを始めて観た時、ボーダーレスに素早く色んなジャンルをミックスするスタイ ルが当時は新鮮だったし、そんな感じで意識していないところで色んな友達から、色んな方向で影響を受けたよ。
– それは嬉しい。そういえば、Boiler Roomでのプレイ観たよ。ハウスにテクノにヒップホップに自分のボーカルまで最高だったよ。今のDJスタイルにたどり着くまで、どういった試行錯誤があったの?
Yaeji – さっきニューヨークに来てから週4回くらいクラブに行ってたという話をしたけど、色んなジャンルの音楽を聴くのが好きだった。ヒップホップも好き、テクノも好き、レコードでプレイするようなハウスDJも好きだし、ベテランの選曲も好きだ、一つ一つ得るものは数えきれなかった。 例えばクラブミュージックのミックスにはバックスピンの手法があったり、レコードでプレイする人はロングミックスがメインだったり、全然違うものだけど、異なる“好き”が合わさって複合的に形になっていったんだと思う。1時間のセットを私の好きなことで全部埋めたいという気持ちで最近はDJしているのかもしれない。YonYonちゃんのプレイを観てから、他にそんな感じで色々ミックスする人に出会うことが 少なくて。私の周りで1人か2人くらいなのかも。
– それは今も昔もそうなの? 理由は何でだと思う?
Yaeji – 少しずつ固定概念はなくなってきてはいるけど、ニューヨークのアンダーグラウンドシーンでは、伝統を壊すことに対する不安みたいなのが存在していて、ハウスもテクノもそうだけど、このシーンではこれが正解でこれが不正解だみたいな決まり事が暗黙の了解で、成立している気がするんだよね。だから、みんな一つの方向性で極めようとするし、 伝統を守ろうとする。もちろんそうじゃない人もいるけど。私はそう言ったルールを壊すことに関心を持つようになったし、ある日はボロボロだったり、ある日は最高だったり試行錯誤を繰り返しながらたくさん学んだ。

– その気持ちはすごく理解できる。お客さんは、その箱が持つイメージだったり、パー ティーに求める理想像を持っていて、私たちはそれをぶち壊しているようなものだから、場合によっては受け入れてもらえないこともあるよね。
Yaeji – そうだね。実験的な試みだから毎回反応は異なるし、好きになってもらえる人もいれば、理解してもらえない人もいる。だけど、そっちの方が普通にやるより全然楽しいよね。
– Boiler Roomとコラボした『Curry in no hurry』のイベントについて詳しく教えて。どういうきっかけでBoiler Roomとコラボすることになったの?
Yaeji – 最初は個人的な理由で始めたの。ニューヨークでクラブに通い詰めていたら本当にたくさんの出会いがって、後々に私をサポートしてくれた人も出て来たりして。イベント中だとなかなか話し込めないから、どうしたらみんなに感謝の気持 ちを伝えることができるかなと考えた時に、お家に招待して料理を振る舞うことを思いついたの。カレーは幼い頃からお母さんが作ってくれた料理だったし、家にカレーのキュー ブがたくさん転がってたこともあって、カレーなら国を問わずにみんな好きだから毎週日曜日に順番に友達を招待してカレーを振る舞うようになった。
その代わり、来てもらうゲストには音楽を持ってくるように頼んだの。モチーフは私が料理をするから、あなたがDJしてねという風に。音楽を聴きながらカレーを食べながら、居心地よい空間を提供したかった。これを1年続けていたら本当にたくさんのゲストが家を訪問してくれていたことに気づいて。KICHINというレストランを運営している友達が1周年はキッチンがあるバーでパブリックにイベントを作ろうよと提案してくれたのがきっかけで、今まで訪問してくれたゲストの中から12組をDJとしてブッキングして、イベントを打った。
今回のBoiler Roomで、Yaeji and FriendsシリーズとCurry in no hurryをコラボさせたのは理由があって。もともとBoiler Roomは誰かの家でやるようなホームパーティーから始まったパーソナルなイベントだったの。私にとってカレーのイベントはパーソナルなものだったけど、他の人も一緒にカレーを食べながら、友達のように一緒にイベントを楽しめるようなものを作りたかった。
– 英語と韓国語をブレンドした歌詞は、とても興味深い。いつからそのようなスタイルになったの?
Yaeji – 韓国語で歌詞を書いたのは最初から。曲を作り始めた時には、内容を他の人に知られるのが恥ずかしかったから、自分だけがわかるように韓国語で詞を書いていたの。アメリカの大学に通っていたから周りに韓国人の友達は少なかったし、そうやって作っていくうちに韓国語の発音そのものの美しさに気づいたの。何を言っているのかわからなかったとしても、聞こえが角を成している感じが耳に心地良かったりサウンドのテクスチャーが美しいと思ったからもっと多用しようと思った。もう一つ気づいた点があって、それは韓国語は私にとって、とてもパーソナルな部分であること。私は普段、第一言語は英語で、家で家族と話すとき以外は他の人と韓国語で話す機会は中々なかった。私が自分の家でしか話さない言語を自分の曲にのせて他の人に聴かせること自体が、私のパーソナルな部分を人と共有している感じがする。英語を混ぜ始めたのは、周りの友達も理解できるようにと2つの言語をブレンドするようになったかな。
– 韓国語と英語はどうやって使い分けて歌詞を書いてるの?
Yaeji – 最初からこうだという決まりごとはないんだけど、歌詞を書く時はメロディーと歌詞が自然にハマるまで色々なフロウを試して選んでいるよ。だけど振り返ってみれば、韓国語の部分はより抽象的で、私だけのストーリーを反映させているから、他の人が聴いた時はそれぞれの解釈が異なってしまうかもしれない。英語の部分は、もう少しラフな内容だったり、まるで会話しているようにわかりやすい単語をチョイスしているのかな。故意的にそうした訳ではないんだけど、考えてみたら、そうなっている気がする。
– ”drink i’m sippin on”のクゲアニヤ~クゲアニヤ~という部分は耳から離れません。あのフレーズはどのように思いつきましたか?
Yaeji – このフレーズもさっき話した方法と一緒で即興で試ししながら、この単語に辿りついたの、これを繰り返そうと思ったのは単語の響きが良かったから。私のリスナーは韓国人よりも外国人が多いから、韓国語がわからない人が聴いてもサウンドが耳に残るようにしたかった。もう一つの理由はある特定な単語を繰り返すことで、何か特別な意味を持たせたかった。 “No matter what you think, it doesn’t matter”というアティチュードを持って、他の人が自分を誤解していても、私は私をわかっているから関係ないというメッセージを最終的には曲のテーマとして作っていった。
– ビデオも自分で作っているよね。
Yaeji – 映像を作ることは、アメリカの高校に通ってた頃に教養として基礎を学んだ。大学に入ってからアニメーションや映像編集に関する授業を受けていたけど、音楽を作るようになって、これらの経験を通してYaejiというプロジェクトは音楽からビジュアルまで、全てのアイディアを私の手で形にしたいと思うようになった。 中でもミュージックビデオはビジュアル面で一番象徴的だから、いつかは自分で作ろうと思っていた。最近リリースした”Raingurl”のMVも製作陣からキャスティングまで全て私周りの友達が関わってくれて、一緒に作品を作る機会を作れて本当に嬉しい。
– 外から見て、韓国の音楽シーンはどのように映る?
Yaeji – 私は韓国に年に1回しか帰えらないから韓国のシーンについて、ああだこうだと言える立場ではないけれど、やっぱり直接韓国に来ないとわからないことはたくさんある。音楽は世界共通言語だって言われているけど、実はその国の文化というのが深く反映されている。 それはアンダーグラウンドのシーンも一緒。 韓国のシーンはニューヨークのシーンに比べて規模は狭いけれど、音楽に触れる態度が少し異なるような気がする。韓国はジャンルに対してオープンマインドだし、色んなジャンルの音楽を聴いてる友達が多いかな。一度ハマると深く掘り下げて音楽を聴いているけど、 流行が強いから帰ってくる度に毎年クラブの雰囲気が違う。毎回違う音楽にみんなハマっていて、変化が激しいなって思っている。
– ニューヨークはどう?
Yaeji – 一番のニュースは、Dance Cabaret Law(アメリカの風営法)が今年なくなったこと。法律的に踊ることが許されるようになったから、安心してクラブに行けるようになった。それと同時に、実はベニュー不足だったりするんだけど、最近、PalisadesというDIY的なアンダーグラウンドイベントをよくやっていたクラブが潰れて、悲しかった。他にも色々潰れたり、また新しいクラブができたりと、より一層変化が激しい年だったな。
ニューヨークのクラブシーンで一番印象的なのはやっぱり、DIYのレイブが存在していること。ブルックリンの今にも崩れそうなウェアハウスみたいなところで、真昼までテクノで踊りまくるパーティーが存在して、未だにニューヨークのアンダーグラウンドシーンに大きな影響を与えていると思う。例えば、LGBTQのコミュニティーに対して、彼らが安全に踊ることができる環境を作っていたのはこのレイブカルチャーの存在が大きいし、中ではUNTERというパーティーが有名だよ。最近はDIYレイブの勢いが少し収まってきていて残念だけど、私の周りの友達が2018年に向けて新たにオープンマインドなパーティーを仕掛けようと色々準備しているのを見ていると、テクノ以外のイベントも増えそうで楽しみ。ニューヨークの良いところはたとえ立場やシーンが異なっていても、お互いサポートしな がら一緒に成長していく感じが良いね。
– 日本で初めてプレイすることは楽しみ?
Yaeji – うん、楽しみだけど実は少し緊張しているんだ。日本は中学生の時に1年くらい住んでいたけど、とても短い期間だったし日本のクラブシーンにも関心はあったものの、東京のクラブにはまだ直接行ったことがない。だから何を予想していけば良いのか感覚が掴めないかな。あとは、出演者の数に驚いた。アメリカと違ってあんなにたくさんのアーティストが出演するから、なんだかミニフェスティバルなイメージなんだけど、どう?
– そうだねー。ソウルもアメリカもだいたい一晩で4-5人で回すことが多いけど、ここは 持ち時間が少ないしフロアの数が何個もあるから同時に何人もの人がプレイしてるよ。プライベートでよく日本に来るよね。お気に入りの場所は?
Yaeji – 家族がみんな日本が好きだから家族旅行で良く来ていたよ。学生の頃、新宿に住んでいたから東京に来る時はいつも恋しくて、よく新宿付近をぷらぷら散歩してるかな。あとは、 箱根の温泉もよく行く。去年、YonYonちゃんと行った新宿のワインバーもまた行きたいな!
– 最後に、日本で待っているファンの皆さんに一言お願いします!
Info
タイトル:WWW NEW YEAR PARTY 2018
日程:2017/12/31(日)
会場:渋谷 WWW / WWW X
PUNPEE (DJ / COUNTDOWN ACT)
Yaeji (NY)
KID FRESINO
JJJ
JP THE WAVY
STUTS
Qiezi Mabo
BAD HOP
MonyHorse,PETZ,kZm (YENTOWN)
ゆるふわギャング ←NEW
RAU DEF
[DJ]
KM
shakke-n-wardaa ←NEW
CH.0
TSUBASA a.k.a JAM (YENTOWN) ←NEW
Bushmind
矢車 ←NEW
YonYon
時間:22:00 / 22:00
料金:前売り ¥3,000 / 当日¥3,500 (税込 / ドリンク代別)
※20歳未満の入場不可。年齢確認のため、必ず写真付身分証明書をご持参ください。
※WWW / WWW X 出入り自由
一般発売:12/9(土) 10:00〜
e+ / ローソンチケット[L:75103] / チケットぴあ[P:102-858] / iFLYER / WWW店頭
問い合わせ:WWW 03-5458-7685 / WWW X 03-5458-7688
公演詳細ページ:http://www-shibuya.jp/schedule/008583.php
次ページには韓国語でのインタビューを掲載
Source: FNMNL フェノメナル