情熱とアイディアを持って「生活」と「音楽」を両立させている人にフォーカスを当てて話を聞いていく対談連載「生活と音楽」。
前編ではMOROHAの活動を続けていく中で、MOROHAの活動だけで生活を成立させる収入を得ていくに至った過程と覚悟を聞いた。
後編ではさらに踏み込んだ話を聞いていく中で、彼独自の「生活」と「音楽」に関する思想が見えてきた。
Interview & Text:タイラダイスケ(FREE THROW)Photo:おみそ
<MOROHA / 上京タワー>
「音楽で食えてないって言っている人は、人生が音楽だと思ってない人だと思いますよ。」
タイラダイスケ(以下タイラ):すごく意地悪な質問なんだけど、一般論では「音楽で食っていく」「音楽で生活をしていく」っていうのは昔に比べて難しくなったと言われているよね?俺も確かに音源が売れたくなったとか、そういう一つの状況だけを鑑みれば、一理あるなと思うんだけど、でもアフロ君は音楽で…もうちょっと言うと音楽をやって、自分の音楽っていうものを使って、収入を得ていくぞっていう決意を昔からしてて、今はそれを成し遂げているよね。その現状に対して不安みたいなものはあったりするの?
アフロ:ありますよ。それは…「収入を得てしまったから自分が安心しちゃうんじゃないか?」っていう不安だったり。
タイラ:そっちの不安なんだ?
アフロ:もちろん(収入が)ゼロになるっていう不安もあるし…。あともう一個言えば、「自分の実力以上に貰っちまってるな」って思う瞬間も無きにしも非ずだったりもするんですよ。そん時はやっぱ焦って努力するし。
タイラ:こんなに貰って良いのかな?っていう。
アフロ:うん。「これくらい貰うべきだ」って思う時もあるけど。まだ、どっちもある。すごく「お前はどうなんだ?」ってお金に問われるときがある。それはライブハウスのキャッシャーの脇を偶然通った時に、MOROHA目当てのお客さんが財布から出したお札に写ってる諭吉と目が合う瞬間もそうだし、口座に振り込まれたお金を引き出すときもそうだけど…すごく問われる瞬間だなと。そのたびに不安にもなるし、達成感にもなるし。もちろんそれは状況によるんですけど。
タイラ:なるほどなるほど。じゃあそれは結構イタチごっこというか。
アフロ:うん。でも全部有難いなと思うっすけどね。不安もね。
タイラ:それこそさっきの話しじゃないけど、それも「人生がリリック」だからね。
アフロ:だから捨てるとこないんですよ。
タイラ:でも、それはMOROHAならではっていう感じもするね。
アフロ:それはあると思いますよ。これは俺の話であって、他の人に当てはまるとは全然思わないっす。だからそれはすっげー幸せだと思う。
タイラ:確かに。捨てるところがないっていうのは、逆に言えば「何でも来い」っていうことだからね。
アフロ:だって変な話、俺が金に溺れて調子こいちゃって、「俺は何でこんなことしちゃったんだ!」だって歌詞としては良いんだから。だって誰しもあるでしょ?ちょっと調子こいて痛い目に合った、とか。その意味で「(自分を)神格化しない」ってことなんですよ。神格化したらもうそれは許されないわけじゃないですか。ミュージシャンがきついのはやっぱ捨てるところがあり過ぎるんですよね。ゆえに、やっぱちょっと食えないっていうのはあるのかもわかんない。
タイラ:ゆえにっていうのはどういうこと?
アフロ:うーん、「ミュージシャンたるもの」っていう…。
タイラ:「こうあるべき」っていうのが足枷になってるってこと?
アフロ:うん。やっぱ「カッコつけるのが商売だ」って思っているでしょ。俺が思うにそうじゃないんですよね。でももっと言い方変えれば、ナベさん(ATATA奈部川さん)が今仕事して、でもその経験っていうのが、今歌詞になっているとすれば、それはもう音楽で食っているんですよ。そこを生きがいに感じて熱く生きているんだったら。
タイラ:奈部川さんは、介護の仕事している人じゃないとわからないような単語とかを歌詞に使ってるって言ってたね。
※参考記事:タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.3】×奈部川光義(ATATA)[前編] パンクから形成された「音楽観」と「仕事観」
アフロ:ですよね。それはもう音楽で生きてるって言っても過言じゃないと思いますよ。
タイラ:結局それによって音楽が出来てるってことだもんね。
アフロ:だから音楽で生きていけてないって言っている人は、人生が音楽だと思ってない人だと思いますよ。
タイラ:「結局人生全部音楽なんだ」「仕事をしてる時間も全部音楽なんだ」っていうことだよね。
アフロ:表面的な話しをすればね、俺は音楽だけやって全然食えてるように見えるかもしれないけど、俺は音楽以外の…俗に言う音楽家がやっていること以外のこともめちゃめちゃやってるし。サラリーマンの時よりも「この気持ち惨めだな」って思うような、営業だったりっていうのも全然やってる。でも別に「それも俺の音楽だから全然平気」って思えるっていうのは強いっすね。
タイラ:なるほど。それはめちゃくちゃ良い話だね。説得力があるね。
アフロ:良い話しちゃった(笑)。
<MOROHA「バラ色の日々」>
「達成感」をちゃんとコンスタントに感じられる人は辞めない
タイラ:やっぱりMOROHAの特異性というか特殊性は前提としてあるよね。
アフロ:あるあるある。
タイラ:他の人たちみんながアフロくんの営業含めたMOROHAみたいな表現が出来るわけじゃないじゃん。もちろんMOROHAみたいにやりたいっていう人もいると思うけど、それがちょっと自分には合わないっていう人もいるし。そういう人はどうしたらいいと思う?
アフロ:そういう人は、俺みたいなことをしてくれる大人を早く見つけることだと思う。
タイラ:なるほど。
アフロ:もっと平べったいこと言えば、早いうちにメジャーに行くこと。だってそういう人はさ、才能一個で勝負したいと思ってるわけでしょ?それは間違ってないと思うから、代わりに俺みたいに泥すすったりしてくれる信頼出来る人を早く見つけること。
タイラ:なるほどね。それはその人の考える「音楽で食う」っていうことに繋がるかもね。
アフロ:うん。
タイラ:逆に言うとさ、例えばそれが叶わなかったとき…根本のテーマに戻っちゃうんだけど、みんな音楽とかバンドを辞めちゃうのってやっぱりお金が稼げないから辞めちゃうのかなぁ?まぁ純粋に情熱が無くなったっていう人もいるとは思うんだけど。
アフロ:俺はねぇ、「達成感」だと思う。それが金になろうがならなかろうが、それがちゃんとコンスタントに感じられる人は辞めない。
タイラ:このコラムでLITEの武田君に話を聞いたときに、バンドはお金稼ぎでやってるわけじゃなくて、バンドでしか得られない幸せがあるんだって意味の事を言ってたんだよね。それがあるからバンドを続けてるって話をしていて。もちろんLITEはとても人気があるバンドだから全く収入がないわけではないと思うんだけど、それよりもお金で代えられないバンドでしか得られない幸せがあるんだって。それはさっきアフロ君も言ってた「達成感」っていうことなんだと思うな。逆に言うと、MOROHAは2年前とかまではバイトしながらやっていて、その都度都度で何かしらの「達成感」を得たから続けられたっていう部分があるわけだよね?じゃあその「達成感」って具体的にどうやって得てきたのかな?
※参考記事:タイラダイスケ(FREE THROW)【生活と音楽 Vol.2】×武田信幸(LITE)バンドマンとして、バンドを続ける「不安」と「喜び」に向き合う(前編)
アフロ:あのね、俺の第一歩は、自分の欲望っていうのを素直に受け止めること。それって何かって言うと、「何で音楽やってんのか?」っていうところに立ち戻ったときに、やっぱり俺はね、「自分が認められたい」だったりとか「俺がカッコいいと思った人間に俺のことカッコいいと思ってもらいたい」、あと「UKをぎゃふんと言わせたい」…自分の欲望はそういった類の色々だったんですけど。
それを一個一個純粋に潰していくために、例えば「自分がカッコいいと思った人間に俺のことをカッコいいと思ってもらいたい」と思ったら、MOROHAの企画にそのカッコいいバンドを呼ぶ。で、俺のライブ見てもらう。その打ち上げで、お前らライブ良かったよって言ってもらって、先輩も良かったっすよ、って会話が成立したら一つの達成感じゃないですか。
例えば「人に認められたい」と思ったら、お客さんをたくさん入れる努力をする。それは例えばフライヤー撒いたりとか、音源の質をとにかく上げるとか。で、俺が唯一出来てないのはUKをまだぎゃふんと言わせられてない。
タイラ:そうなの!?「アフロ、今回のリリックやばいな!」とか言われないの?
アフロ:ないないないないない。全然ない。
タイラ:逆にUK君にぎゃふんと言わされる時はあるの?
アフロ:毎回ですよ、あいつにはぎゃふんと言わされっぱなしですよ。「すごいすごい!カッコいい!!」っていう。
タイラ:そうなんだ(笑)。「そのリフ、指どうなってんの!?」みたいな?
アフロ:うん。でもね、一番大きいのは、やっぱり音楽で自分の納得出来る表現をするっていうこと。これに対しての達成感は、まだね、全然だね。
タイラ:こんなもんじゃないっていうこと?
アフロ:うん。こんなもんじゃないと思ってる。でもそれ以外はさ、多分自分の頑張りで何とかなる。音楽使って人と出会えるってこともそうだし。そうじゃなかったらタイラさんともこうやって喋れてないだろうし。
タイラ:自分の欲望…それは人それぞれ多分違うだろうけど、その欲望に向き合って、それを細かく一個ずつ潰していく作業っていうのが達成感になるっていうことなんだね。そしてそれは自分の努力と工夫である程度何とかなるっていう。
アフロ:(欲望は)無くなんないですけどね、やっぱ。ずっと。一個潰したらまた一個(増える)。
タイラ:上を向いたらキリがないもんね。でも逆に自分が自分に納得したらもうやらなくなっちゃうよね。
アフロ:だから納得したら辞める。
<MOROHA 『30/20(LOST IN TIME 「30」リアレンジ)』>
「幸せになるために音楽を俺が選んでるんだから、やっぱり俺の方が偉い。」
タイラ:なるほど。じゃあ一番最後の話なんだけど。今後の、MOROHAとして、自分個人としても含めて、今後の夢とか目標を聞かせて貰ってもいいですか?
アフロ:あ~、夢かぁ…。まぁでもねぇ…UKをぎゃふんと言わせたい!
タイラ:やっぱり。ちなみに特にUK君がめちゃくちゃ辛口だっていうわけじゃないよね?
アフロ:じゃないけど、何かやっぱスタートが、俺はあいつに対しての負けん気で始めてるんですよね。あいつは高校の時からずっと音楽やっていて、やっぱギター弾かせればすごい上手いし。あとは…うーん…でも素直にちゃんと知ってもらいたいですね。国にとって良いと思うんですよ、MOROHA。いや、今流行ってる音楽っていうのがあっても全然良いと思うんですけど、そればっかりじゃなくてもいいでしょ?って思うのはある。
他人のやってる事に対し鋭い視点でツッコミを入れるもの、例えば岡崎体育さんの「MUSIC VIDEO」は本当に逸品だと思う。めっちゃ面白かった。あれはね、「視点のプロ」。他人の揚げ足とりで終わらないのは矢面に立ってるから。悔しいけど清々しい。だけど矢面に立ってない人間が同じ事をしようとすると、ただの捻くれ者で単純に不幸にしかならないと思うんですよね。そういう人間ってどっちかっていうと、MOROHAみたいに汗かいて泥にまみれていかないと、多分本当の達成感を得るっていうのは難しいと思う。と思えば、選択肢として俺たちもっと売れて良いんじゃないの?って。
<岡崎体育 『MUSIC VIDEO』>
タイラ:MOROHAはそこの一番だもんね。
アフロ:色んな一番があって…。すごいことやってるんだけどなぁと思う。
タイラ:すごいことをやってるよね。それはもう胸を張ってもらいたい。
アフロ:あとはまぁ、彼女に怒られないように音楽活動を、人生をやること。
タイラ:怒られないでしょ。誇りじゃない?彼女からしたら。
アフロ:でも彼女かわいいから言い寄ってくるやつとかいると思うんすよね。仮にバンドマンが言い寄ってきたときに、「私の彼氏MOROHAのアフロ」って言ったらそのバンドマンがしょんべんちびって逃げ出すような…そんなライブをしたいと思った。小さい世界だって思うでしょ?
タイラ:いやいや。
アフロ:でもそれが男らしくかっこよくありたいってことだと思う。
タイラ:それはもう何回も繰り返すけど、結局「人生すべてが音楽」だって話しになるよね。
アフロ:だからやっぱタイラさんとか「ドヤッ!」としてほしいですよね。「俺は最初からMOROHAやばいって言ってたんだぜ!」って。そう言ってくれる人ももう数少なくなってきちゃったんだけど。
タイラ:「MOROHAは俺が育てた!」みたいな?(笑)
アフロ:そうそうそう!ホントに!タイラさんに関してはやっぱ胸張って言ってほしい。
タイラ:いやいやいや!(笑) あとは言い残したことはないですか?
アフロ:言い残したことですか?うーん…結局自分が一番頑張れる方法をとるのがいいと思います。
タイラ:それは音楽をやるっていう意味で?
アフロ:俺みたいに、「自分の作った自信があるCDを広めるためには自分が頭下げたほうがいいに決まってる」って思う人もいれば、逆にその作品が(自分の中で)すごく大切すぎちゃって「それを(他者に)拒まれたら自分の心がもたない気がする」ってなったらそれはやめたほうがいいし。自分が一番いい音楽だと思うものを作れるような状況に自分を置くのが一番いいと思う。自分が幸せになれるような方法をとるのが一番いいから。ぶっちゃけ「音楽じゃなくてもいいや」って、辞める方が幸せになれる人もいると思うから。
タイラ:そこはやっぱり自分で自問自答しなきゃいけないってことだよね。「俺には音楽だ!」って思ったのが21、2歳ぐらいでしょ?それ以降「やっぱり音楽じゃないかも?」って思った事はある?
アフロ:やってることが音楽じゃないかもと思ったことはある。音楽って言われなくても別に構わねえなぁって。「かかってこい俺の表現に!」って思う、最近は。
タイラ:じゃあ「自分が一番幸せになれるんだったら音楽じゃなくてもいいじゃん」っていう意味で言うと、音楽とかラップをやめようとか思ったことはない?
アフロ:ない。
タイラ:一瞬も?
アフロ:ないなぁ。
タイラ:それはすごいね、素晴らしい。素晴らしいというかそれだけやっぱり決意が深かったんだね。
アフロ:俺の方がね、音楽より偉いと思っていたい。なんかロックとかHIP HOPよりも俺の方が偉いから俺の方が正しいんだよって言える自分でそこを保ってたりする。それがすごくこう…幸せになるために選んでるものであって音楽をやるためにやってるわけじゃないし、幸せになるために音楽を俺が選んでるんだから、やっぱり俺の方が偉い。偉いっていう言い方はちょっと変なんだけど。
タイラ:手段と目標とがぐちゃぐちゃになっちゃうとおかしなことなるよね。今言った幸せになるっていうことが、達成感だったりとかそういうことになるんだよね。
アフロ:どっちが先かっていう話なんだけど。立ち返るときに必要なのは、結局「音楽、音楽」ってなった時に立ち返るのは「いや幸せの方が大事だろ」っていうハンドルの切り方もあるかもなっていう。みんなに対しても。
タイラ:でも、アフロ君の場合は決意したタイミングから「幸せ」っていうところに続いていく道がずっと「音楽」と「音楽にまつわること」だったっていうことだよね。でも自分で自分の音楽を営業してってなるとやっぱりむちゃくちゃ大変だろうね。
アフロ:でもね、なんかわくわくしてるよ。自分のことめっちゃ好きだから。もうジャンプの紙面の中の話なんだよ全部。その瞬間はいなかっぺ大将の営業物語なの。(MOROHAは)それに音を乗せてっていうのをやってる。
タイラ:そうか。大変っていう感覚ではないんだね。それももう音楽ってことだね。
アフロ:自分が作ったCDを自分で渡しに行ってさ、それが自分の仕事につながって連絡来たらめっちゃ嬉しいよ?もう全部自分の手柄だし。
タイラ:確かにね!しかも自分が作ったもんだからね。
アフロ:しかもその相手のことめっちゃ好きになるよ。だから、こんなに素敵なことはないよ。
タイラ:逆に相手のこと嫌いになる場合もあるんじゃないの?(笑)
アフロ:嫌いにもなる!!
タイラ:あはは!(笑)
アフロ:でも嫌いもさ、ガーっといくと曲になるじゃん?だからいいの。
<MOROHA / 四文銭>
あとがき
MOROHAとの、アフロくんとの付き合いも長くなった。
でもこういう風な話をじっくりと聞いたのは初めてだと思う。
彼は「言葉の人」だから、一つ一つの言葉を本当に選んで答えてくれた様子が対峙した自分にはヒシヒシと伝わってきた。
それは長い付き合いの自分にも少しの「怖さ」みたいなものすら感じるほどの真剣さだった。
でもその「愚直なまでの真剣さ」こそが彼らの魅力なんだろう。
「生活」の全てを「音楽」に変換し、それによってまた新たな「生活」を紡ぐ。
アフロくんの生き方は本当にタフな生き方だけれど、ものすごく清々しい輝きを湛えている。
その言葉の全てが自分の背中も強く引っぱたいてくれたような気持ちになった。
この背中の赤いもみじが、また自分を前に進ませてくれるかもしれない。
これを読んでくださっている皆さんにとっても、彼の言葉がそういうものになりますように。
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