人気ショップオーナーが注目しているショップを取材して回る本企画、第2回目。初回に登場したZen Source Clothingのアングラ感とは対照的な、のどかな世田谷・上町の住宅街に佇むビルの2階にある静かな古着屋がLeather and Laceだ。 服好きの間でも昨今よく名前を聞くようになった、Leather and Laceのオーナー野口氏にインタビュー。
取材・構成 : 西原滉平
写真 : 村田研太郎
– まずは野口さんご自身のことをお聞きしたいなと思います。野口さんご自身はお店を自分で開くまでは何をされていたのですか?
野口 – 特にこれといった経歴はないんですよね…学校も服飾の学校ではないし。僕いま39歳なんですけど、23、4の頃に一度古着屋さんで1年半ほど働かせてもらって。経歴って言える経歴はほんとそれぐらいです。その後自分の店を開くまでは、海外で買い付けたものをオンラインで売っていました。あとは、他の古着屋に委託して売ってもらったり。
– 20代の頃に働かれていたのはどういうお店だったんですか?
野口 – アメカジです。当時の僕の好きなお店で、高円寺にありました。
– アメカジというといまのLeather and Laceさんの雰囲気からは、ちょっと想像が浮かばない感じがするんですが。
野口 – そうですね、確かに。最初は人と違う服が好きで、人と違う格好をしたいと思って古着を着るようになって、それで古着屋さんに入ったんです。でも、古着屋さんに入ったら、やっぱりその業界で皆同じ格好をするんですよね、当時で言えばCHUCK TAYLORとかChampionとか、王道のやつですね。古着屋の中で違うことをやっていた人は決して多くありませんでした。違う服が着たくて入ったのに、結局みんなそこで同じ格好しているから、自分のやることはそれじゃないなって思ったんです。アメリカに行っているお店も無数にある。で、その中で自分がやっても、上回れないじゃないですけど、違うことをやるのがすごく難しいなと思ったんです。アメリカのものに特に執着があったというわけではなくて、アメリカのものしか知らなかったというだけだったので、じゃあ国単位でいうと次にどこに行くかと考えました。当時はフランス物もすでに人気が出てきてしまっていたので、服の文化や歴史が古くからあって発達しているのは、他にはイギリスやイタリアになると思ったんです。それで今、イギリスを選んだという感じです。
– ではもともとイギリスの服にものすごく愛着があったというよりは、どう差別化していくか考えての選択だった?
野口 – そうですね、消去法です。はじめは特に格別な思い入れはなかったです。一応人並みに情報は持っていたとは思うんですけど、大したアドバンテージになるようなものは持ってなかったです。もちろん住んだこともないし、コネクションもありませんでした。
– イギリスで好きな場所はありますか?
野口 – 好きなところはポートベローですね。誰でも行く王道のマーケットではあるんですけど、やっぱり好きです。ジャンルが幅広いっていうか。ヴィンテージだけじゃなくて最近のも置いているし、あらゆるジャンルが網羅されている。ブースを持っている人がそれぞれの好きな服を本当に色々置いているっていうか。
– イギリスっていう要素の他に、あとよくエスニックっていう要素をブログで目にするのですが、どういう経緯でエスニック的なアイテムを取り扱うようになったのですか?
野口 – いつの間にか、という感じです。イギリスって移民がすごく多い国で、その中でも一番多いのがインド・パキスタン系なんです。そういう人たちが着ていた服もイギリスに入ってくるので、自然に目に触れるようになってくるんです。あえて探さなくても、目の前に出てくるんですよね。なので、イギリスとインドだったりパキスタンだったり、他にも香港やマレーシアも植民地だったので、繋がりが自然に出てくるんですよね。
– エスニックの中でもこだわっている点というのは?
野口 – イギリスとの繋がりですね。だから、現地に行って買いたいとは思わないです。ヨーロッパにきたエスニック、ヨーロッパの文化と混じり合って生まれたエスニックを扱っています。純粋なエスニックをインドやアフリカなどから仕入れてくるお店もあるとは思うんですけど、それはまた意味合いが違ってきますよね。ただの民族服になって、ファションとしては個人的にあまり面白くないのかなと。いろんな服をルックの中で混ぜてこそ面白いというか。
– やはり今はエスニックを扱うにしてもイギリスというのが野口さんの中で大きな要素なのですね。数あるイギリスのブランドの中でも、古いKATHARINE HAMNETTがお好きだと思うのですが?
野口 – 一番好きですね。
– なかなかそこに目をつけているショップはないと思いますが、きっかけは?
野口 – Leather and Laceを開いてからですし、本当ここ2、3年の話ですよ。昔からってわけではなくて。
– すごく新鮮な提案だと感じます。多くの人はマルイなどで販売されているブランドというイメージを持っているのではないかと思うのですが?
野口 – 元々はその区別すらわかってなかったですよ。
– あとJOSEPH TRICOTですね。
野口 – JOSEPH TRICOTは古い時代のジョセフしか興味ないですけど。あそこってセレクトショップから始まって。で、最初に立ち上げたブランドがセーター、ニットのブランドだったんですよ、JOSEPH TRICOTっていう。ショップは70年代からあったのかな、ジョセフの方はショーもやっていたので、オリジナルとして始めたのか、ショップやめてブランドとして始めたのかはわからないですけど。たぶん80年代前半くらいにトリコが出てきました。そこがやっているセーターがすごいんですよ。デザインがエグい。ハンドニットに、馬鹿でかいトラが真ん中にあったり。僕のインスタにも結構載せていたと思うんですけど、本当もう感覚的なものですね。こういうわけで好き、というのじゃなくて。こんな服当時から作っていたんだ、みたいな。単純にその感覚。すごくでかいんですよ。たぶんレディースだけだったんじゃないですかね。でもサイズ感はメンズでも大きいものも少なくなかったです。
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– ではジョセフを見て衝撃を受け、古いものにはまっていったという感じですか?
野口 – そうですね。
– KATHARINE HAMNETTに関しては?
野口 – んんー、キャサリンに関しても、理由はあることはあるんですけど、それは少し後付け的なもので、先ほどと同様に最初は本当に直感的にはまっていったと思います。スローガンTシャツって知ってます?それがキャサリンの象徴的なアイテムなんですが、当時のものはシルクで主に作っていて。キャサリンは、社会問題とかにすごく興味がある人で、そういうのをすごくそのTシャツに投げかけるんですよ。環境汚染に関してだったり、当時の首相だったサッチャーに関してだったり。最初はそういう社会的なメッセージが多かったですね。Stay Alive in 85っていうこれとかはこの時のコレクションで一番有名なやつです。でも、別にそのメッセージの内容に共感してというわけでもない、本当にかっこいいなっていう感覚ですね。
オーバーサイズなのにセクシー。 エスニックなのにエレガント。 色気はボディラインばかりでなく、 素材でも伝えることができるのか。 #1985 #katharinehamnett #springsummer #stayalive #silk #slogantee #warisstupid Leather and Laceさん(@itsumonemutai)がシェアした投稿 –
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– 今の野口さんの目から見た、KATHARINE HAMNETTの魅力は?
野口 – あの人は父親が軍で働いていたんですね。だから小さい頃から軍隊の服に色々触れてきて。今のデザイナーの人って、自分がデザインする目的でミリタリーとかを探すじゃないですか。でもキャサリンはそうじゃなくて、小さい頃から刷り込みのようにミリタリーをみてきて、触れてたと思うんです。だから今の服は結構、浅いって言ったら失礼ですけど、単純にいいなと思った元ネタそのまま作って、あとちょっと今に合わせて修正するみたいな。でもそういうものじゃないんですよね、あの人のデザインは。たぶんずっと昔から見てきたであろうものが無意識にアウトプットされてきたもので。だから今の他の服みたいに、これがかっこいいしこれが流行っているから、これをネタにしようって感じではない。ミリタリーから取っているっていうのは分かるんですけど、その中で何からとってるのかがはっきりわかんないんです。ネタがはっきりしてないというか。いろんなところから自分の中にあるデザインを取ってきて、いろんなものが組み合わせて出来上がってると思うんですよね。そういうデザイナー僕は他に知らないです。今の服はだいたいみんなわかりやすいし、一見わかりづらくても、元ネタが誰も見たことないレアなミリタリーなだけで結局そのまま取ってきているような場合が多いので。わりとコピーって感じのデザインがほとんどだと思うんです。でも僕は、KATHARINE HAMNETTは僕が今まで見た古いものの服で、明らかにこれからとってきただろうっていうの、みたことないですね。
– なるほど。では改めて、キャサリンやジョセフも含めて、お店で扱ってるアイテムを説明していただけますか。
野口 – 本当に流動的なんですよね。別に、これに絶対的なこだわりがあるっていうのは…こだわりはもちろんありますけど、結局着てどうかってところだと思うので。着て気分がいいとか楽しいとか。僕はよくハッシュタグに#dramaticって入れたりするんですけど、そういう意味ですね。ちょっと話がそれるんですけど、自分のドラマの中で自分は主人公じゃないですか。だからその中で楽しめるリミットをあげて欲しいというか、みんなやっぱ、これきたら派手かな、目立つかな、なんていう気持ちから、そういうものを抑えていることが多いと思うんです。そこをもっと楽しくやってほしいなっていう。
– それはお店を通して伝えたいことでもありますよね。
野口 – そうですね、例えば服がちょっと揺れたり、そこでちらっと裏地が見えたり、そんな些細なことで良いなって思うこと、あるじゃないですか。同時に自分もそんな風に見られたいって気持ちもある。単純にかっこよく思われたいだとか、そういう気持ちを大事にしたいんです。そういうところで我慢してほしくない。確かにイギリスとか、KATHARINE HAMNETTとか、店のアイデンティティー的なものはあるんですけど、例えばみんながイギリスものをやったら僕は多分やめますし、着る人に特別であって欲しい。やっぱり自分にとって一番特別なのは自分じゃないですか。それを伝えたいし、その手段が僕には服しかない。服を着ることで、自分が特別であるってことを意識して欲しいし、そういう存在だってことを認識して欲しいし。別にナルシストではないんですけど、もっとみんな自分をかっこいいと思っていいと思う。そういう意味で他の人と同じ服を着るのは違うんじゃないって意識はあります。イギリスもKATHARINE HAMNETTもエスニックも、詰まるところ全部そこからです。
– #dramatic ともリンクすることですか?
野口 – そうです。服を着ることに付随するもの、その時の天気や、歩いている場所、周りの人、話す言葉、振る舞い、そういうもの全部ひっくるめて、自分の中のドラマになると思うし、下世話な言い方をすると、自分に酔う瞬間が生まれると思う。その中で僕ができるのは服だけなんです。自分をかっこいいと思う瞬間に自分を外から見ているような感じありません?そういう時って気持ちいいし、その瞬間を作って欲しいとも思います。だから究極はブランドもどんなブランドを扱うっていうのは関係ない、ただ単純に自分が特別な存在ってことを感じられるような提案というか。もちろんイギリスも好きですし、KATHARINE HAMNETTも好きです、でもそこに特別感を感じられなくなったらやめますね。たまたまイギリスやエスニックやらが、今の僕は特別に感じられるものであったというだけで、イギリスが今のアメカジのような立ち位置になったらやめます。抽象的ですいません、ものの話とかじゃなくて。
– SNSやホームページを見ていると、とても服に関して造詣が深く、いわゆる玄人的なお店という印象があったので、そういった繊細で感情的な要素に非常に重きを置かれていたのは意外でした。
野口 – でも突き詰めると本当にそこだけなんです。あとは服単体だけでなく、合わせ方もです。例えばスケートものとエスニックのような意外性のあるもの。そういう合わせ方も、自分を自分で特別な存在だとしていくのに繋がると思うので、店では意識してます。
– ブログでも服単体で見るよりは、ルックで探すことの方が多いと書いてありましたが。
野口 – そうですね、僕はルックで見る方が、服単体の写真を見るより楽しいです。服に興味持ったのは、母親が読んでいた30代女性向けの雑誌に、パリ・スナップ特集みたいなのがあって。それを面白がってよく見ていたのがきっかけで。そこが原点のような感じなので、自然とルック単位で見てしまうのかもしれません。
– そこから次に興味を持ち始めたのはなんでしたか?古着屋で働き始めるまでに影響を受けたものは?
野口 – 多分結構みんなと同じようなのを見ていましたよ。例えば、当時流行っていたブーンって雑誌を見たり、普通に有名なお店行ったり。全然特筆するものはないです。お金がなかったんで、ハイブランドやコレクションブランドはいいなーって思っても買えず、なので買える服って言えば古着、あと当時安かったAPCとかも買っていました。目黒川沿いにお店があったんですよ。本当に特別な経験はなかったです。ハイブランド買えないから古着でそれっぽいものを探そうって感じで、申し訳ないですけど、本当に普通なんです。
– お店を始めた当初は週に一回の営業日だった?
野口 – そうです、土曜のみで。だから短いスパンで展開のテーマを変えていかないと、お客さんが来てくれないかなと思って、置くアイテムのテーマも1~2週で変えていました。いまでもお客さんの数もすごく少ないですし。
– 店舗移転のきっかけはあったのですか?
野口 – 常設したいとは思っていました。前の店舗は曜日ごとに別のお店が入っていたので、その日の中で倉庫とお店行き来して搬入搬出しなきゃで、大変でした。それでもなんとか4年くらいやりましたけどね。
– 世田谷の上町という立地を選んだ理由は?
野口 – この街に特に思い入れはなくて、他に服のお店がないところが良かったですね。なんていうか、無理して他の服屋と付き合っていく必要のない環境を選びました。あまり人付き合いが得意な方じゃないので。本当に話が合って、いい意味で共感できるのであればいいんですけど、別に好きじゃないお店とうまくやっていくだとか、来てもらったから行かなきゃみたいなのは嫌だなと思ったんです。
– では普段はプライベートで、どういう人と遊ばれることが多いのですか?
野口 – ぜんぜん遊んでないですね…結婚もしてないし、ひとりぼっちです(笑)。仙人みたいな感じですね…。
– 前回取材したZen Source Clothingのホッキーさんからカジュアルな質問です。近くでオススメの飲食店はありますか?
野口 – まともに行ったのはまだ2軒くらいですね。サイゴンっていうベトナム料理のお店は凄く有名なので、行く価値はあるんじゃないでしょうか。でも僕自身食にこだわりがない人間なので、食を楽しむような生活ではなく、良いお返事が返せません…。うちの店の下にコーヒー屋があるので、コーヒー飲みたいときはそこ行きますね。
– お店の名前の由来はStevie Nicksの曲からだと想像していたのですが、音楽はどういったものを聴かれるのですか?
野口 – 名前はそうです。Stevie NicksはFleetwood Macのメンバーで。音楽は雑食ですねほんと。結構音楽からファッション、ファッションから音楽とかよく言うじゃないですか。でも僕に関しては音楽は、自分の服とも、もちろん店とも全くリンクしてないですね。バッハはずっと好きです。
– 今後も展開アイテムは古着のみを考えていますか?
野口 – 以前は手編みニットなどをポップアップ的に置いた時期もあったのですが、そういうのを抜きにするとしばらくは現行のものは置く予定はないですね。TUKIのパンツとかは好きなので個人的に履いてはいます。
– 私服とお店で展開するアイテムの違いはありますか?
野口 – 自分が着る服と店で置く服は、リンクはしていますが、店優先です。伝えたい服を自分で着てしまうと、伝えたい服を店で置けなくなってしまうので、自分の格好には妥協はあります。しゃーないってかんじで、悪く言えば自分の格好はどうでもいいです。
– 今のロンドン・コレクションはチェックされていますか?
野口 – たまに気が向いた時にヴォーグのアプリとかでちょっと見ますけど、今の服は、別にロンドン・コレクションを特別視しているわけではありません。
– いわゆるメインストリームのお店や服、流行を見て思うことはありますか?
野口 – んー、今のままでいいんじゃないかなと。僕も大きな流れは知ってないといけないじゃないですか、知っていて初めて違いを出せるというか。だから僕も意識はしていますが、その上で違ったことを提案するだけなので。例えばオーバーサイズの流れがあったら、それに乗ったりもします。つまらないなと思うことはあっても、業界全体に対しての批判はないですね。逆に大きな流れがなくなる方がこわいです。それぞれのお店が本当に全部違うことやっていたら、流れの軸がないから、違いも出しづらくなる。大きい流れがないと、今ここでやっているようなことはできないし。そういう意味では売れている流行りのお店がないと逆にやっていけないかもしれません。もちろん、お酒飲んでる時に、ダセぇなとか言いますけどね。でも同じことをうちに対して思ってる人もいると思う。そういう気概じゃないですけど、あそこもいいね、ここもいいよねだけじゃつまんないと思うんです。決して表立ってじゃないですけど、ディスり合うっていうのもあってもいいと思うし、大事なことだと思うんですよ。それが自分の頑張る原動力になりますし。服屋に限ってではなく、メディアなどに対しても基本的に同じことを思います。
– 置く服にヴィンテージとしての価値は重視しますか?
野口 – しますね。やっぱりそれは古着屋さんの特権だと思いますし、気にしないって言い切ったほうがかっこいいのかもしれないですけど、希少性なり年代なりの価値を使っていかないと古着屋は食っていけないと思うので。
– 野口さんが現在注目されているショップをお聞きできますか?
野口 – 新宿のGeraldさんです。セレクトや提案を見ていて、悔しいなと思うことがありますね。
– Geraldさんに対して悔しいというのはどういった?
野口 – こんな提案があるんだ、というアイデアですかね。例えば以前はUKのバイクウェア、しかもレザーじゃなくGore-Texだったりすごく派手な色だったり、それは自分の中では全く思いつかなかったので。そういうアイデアをどうやって思いついて形にしていくのか、そのプロセスはお聞きしたいです。
– お店として今後の目標などは?
野口 – やっぱり常に違う要素は入れていきたいです。でもマインドの面は現状維持というのかな、だからこそ置いているアイテムは絶対に現状維持はないです。
Info
Leather and Lace
<住所> 東京都世田谷区世田谷2-14-3 2F
<営業時間> 月曜・金曜15時〜22時 土日祝日12時〜20時 ※水曜・木曜はアポイント制
店舗HP : http://www.leatherandlace.jp
店舗instagram : https://www.instagram.com/itsumonemutai/
Source: FNMNL フェノメナル