情熱とアイディアを持って「生活」と「音楽」を両立させている人にフォーカスを当てて話を聞いていく対談連載「生活と音楽」。
第5回目となる今回は新代田で愛される飲み屋「えるえふる」のオーナー兼プロデューサーであり、「core of bells」というバンドでも活躍している會田洋平さんに話を聞いた。
前編では會田さんの「好きな事だけをやって生きる」という信念に基づいた今までの半生を聞いた。
後編はその「好きな事」が具現化したようなお店「えるえふる」についてより深く聞いてみた。
Interview & Text:タイラダイスケ(FREE THROW)Photo:おみそ
えるえふるの2年半
タイラダイスケ(以下タイラ):今えるえふるがOPENして2年くらいですか?
會田洋平(以下會田):2018年2月で2年半になります。
タイラ:2年半で印象に残ってるエピソードがあれば教えてもらえますか?2年半ですごく愛されるお店になったっていう感じはしますよね。
會田:そう思っていただけてるなら嬉しいですね。僕、飲食の経験がなくてド素人で始めたのによく2年半続いてるなっていう感じはしますが(笑)。色々変わっちゃう店も多いなか、有難いなって。
タイラ:飲食の経験も料理経験もそんななかったってことですよね。
會田:料理は家で野菜炒め作る程度でした(笑)。飲食でバイトしたことはありますけど、いわゆるホールみたいな仕事だったので、調理経験は全くなくて。
タイラ:食べ物のメニューを出すのがまずすごく大変だったんじゃないですか?
會田:最初の予定はもういわゆる角打ちというか、お酒が置いてあってちょっとアテがあるみたいなイメージでした。だから本当に簡単なメニュー…飲み屋に行くといぶりがっこにクリームチーズ乗せてるのとかあるじゃないですか?あれなら誰でも出来るじゃないですか(笑)。あと刺身切るくらいなら出来るかなって。結局欲が出てきて、今はちょっと料理してるんですけど、最初はそのぐらいのつもりでした。
タイラ:最初のハードルは良い意味で低く?
會田:そうですね、無理しても続かないんで。飲み屋の知識を活かして、自分が出来る範囲のおつまみを出すって感じで思ってました。ちなみに、お店をやってて印象に残ったこと…いっぱいあるんですけど、アーティストの方にたまにキッチン入ってもらって日替り店長みたいなことをやっているんです。例えばcinema staffの三島くんにカレー出してもらったり、漫画家の谷口菜津子(※1)さんにおつまみ作ってもらったり。ファンがアーティストの手料理を食べる機会を作れるっていうのは楽しいですね。
※1 谷口菜津子。漫画家、イラストレーター。1月12日に初のストーリー漫画集『彼女は宇宙一』を発売。
タイラ:そうですよね。なかなか出来ないですよね。
會田:「飲食店をやろう」と思って始めたお店だったら、そもそもこういう発想はないだろうな~って。だからそれで喜んでもらえるのは嬉しいです。そういうイベントで集まって、たまたま出会ったとか久しぶりに会った人たちの出会いがその後の企画とかイベントに繋がったっていう話もちょいちょい聞くんです。
タイラ:えるえふるがすごく良い社交場や出会いの場になってるって事ですね。これもすごく失礼な質問なんですけど、おつまみも飲み物もめちゃくちゃ安いじゃないですか。「店がマジ潰れるかも!」みたいなことはなかったんですか?「今月やばいぞ!」みたいな。
會田:まぁ「今月、人来てないな…」みたいなことはもちろんあるんですけど、これお店としてどうなのかわかんないですけど、結局平均するとずーっと横ばいっていうか(笑)。本当に大げさでも卑下でもなく、ずっとそうなんです。別にすげぇ儲けてるわけでもないし、マジでやばくて「人来てくれー!」みたいな状態でもないし、みたいな感じですね(笑)。
タイラ:それはもう一番いい状況ですよね。心穏やかに楽しくやれるっていう。でもそれにしてもえるえふるはすごい安いっすよね。俺も行ったときに何杯か飲んで、アテも何個か頼んで、結構いい感じで酔っぱらったけど、千円台くらいだったような気がする(笑)。「こんな安いの?」みたいな。それもやっぱりこだわりがあるんですか?
會田:えるえふるに関しては完全に“自分基準”ですね。僕自身、立ち飲み屋は散々周って来たんで、値段設定も料理も「僕だったら行くかどうか」で考えると、えるえふるの今の状態になる(笑)。
タイラ:なるほど。もう100円ずつ高かったら行かない?
會田:行かないですね!
タイラ:えー!(笑)
會田:50円高くても行かないでしょうね(笑)。で、正直言っちゃうと…実はもっともっと安い店を知ってるんです。だから、まぁそうですね…すごい安いって言ってもらえるのは嬉しいですけど、まだあるぞって思ってるんですよ、僕自身。だからあれが僕の中の基準ですね。
タイラ:なるほど。でもそこはプライドというか。
會田:まぁそうですね。その基準はどうしても譲れない。でもこれ以上安くしちゃうと流石にちょっと厳しいかなっていう、本当にギリギリの線を攻めてるつもりです(笑)。
「飲み屋」という枠を飛び出していく會田さんの好奇心
タイラ:今日体育祭の話を聞いてすごく腑に落ちた部分があるんですけど、店だけやってるわけじゃないじゃないですか。キャッチボールクラブ(※2)とかラジオ(※3)とかもやってて。
※2 新代田キャッチボールクラブ。無類の野球好きでもある會田さんが呼び掛け、世田谷区羽根木公園の野球場で不定期に開催されるキャッチボールをする会。
※3 えるえふるラジオ。第2火曜日・第4火曜日に公開収録、毎週土曜日に配信されるネットラジオ。
<えるえふるラジオ第38回前半(20180109)>
會田:そうですね。特にラジオはもう1年半以上やってます。
タイラ:ラジオっ子だったんですか?
會田:いや、実は全然で。いわゆるラジオっ子って中高生のときに聴く人が多いと思うんですけど、がっちりハマり始めたのはホント最近、4~5年前くらいなんです。それこそモヤモヤしてた3年間の間に本当につらいなぁ…って時期があって。その時にcore of bellsの公演の参考資料として、初めて伊集院さんのラジオを聴いたらめっちゃくちゃ面白くて。公共の電波でこんなにも無意味で下らないことをずっと話してていいんだ…!って(笑)。もう衝撃でしたね。
それをきっかけに「ラジオってクソ面白い世界なのかも!」って思い始めて、そこからもうどっぷり。まず伊集院さんにハマってラジオを好きになりましたね。そのあとおぎやはぎさんとか、オードリーさんとかだんだん聴き始めて。
タイラ:で、自分でもやってみようっていう。
會田:そうです、極めて単純な理由です(笑)。お店始めてすぐはバタバタしてたんで始められなかったんですけど、辻君には「俺、ラジオは絶対やりたいと思ってるからいずれやろう!」っていう話は最初からしてたんです。でも、僕と辻君だけじゃあんまりうまくいく感じがしなかったんですよ、2人ともあんまり饒舌には話せないんで(笑)。ラジオって、その辺を上手く整えてくれる女性パーソナリティがいるイメージあるじゃないですか。そういう人いたらいいな~って思ってたらオープンして1年くらいした時に、たまたま友達に7A(※4)を紹介してもらって。彼女もちょうどラジオやりたかったみたいで、「じゃあやろうよ!」ってなって、翌月にはもうラジオ始めてました(笑)。
※4 7A(ナナエ)。モデル、役者、衣装スタイリング、ラジオパーソナリティ、イベント企画などをこなすマルチプレイヤー。(Twitter:https://twitter.com/hatokowai)
タイラ:なるほど。じゃぁえるえふるっていう場所は最初の「レコ屋と飲み屋」っていうところから発展して、今はその場所を使って更に色々な出来ることをしていくような感じになっているんですね。
會田:そうですね。
タイラ:そういう部分も會田さんの高校生の時から続いている根っこの部分があるからなんだと思いますね。
これからのえるえふる
タイラ:じゃあ、最後に聞きたい事なんですが、今えるえふるがOPENして約2年半で、今まででもだいぶ色んなことやられてると思うんですけど、これからえるえふるでやりたいことがあれば教えてください。
會田:これからやりたいことは…僕は料理人になりたいと思ってえるえふるを始めたわけじゃないんです。えるえふるみたいな場所があることによってイベントとか販売とか発信とか出来ることがいっぱいあるので、それをやりたいなっていうつもりで始めたんです。実は今度の4月から新しいスタッフが一人カウンターに入ってくれるんで、僕がもっと動けるようになるんですよ。だから当初考えてたような楽しい思い付きをどんどんやっていきたいですね。土日の昼間に人狼ゲームとかゲーム大会もやりたいし(笑)。ボードゲームとかやりたくないですか?3時間くらいかけるやつ(笑)。
タイラ:いいですね(笑)。テレビゲームじゃないのがいいですね。
會田:まぁテレビゲームもやりたいですけどね、007とか(笑)。他にも、今タイラさんが記事にしてくれてるみたいに、僕もお酒や音楽に関してのインタビューをしてみたい人もいっぱいいますし。新代田にはライブハウスFEVERがあって、最近はYACHT(※5)っていうお店が新しくできたりで、街自体もっと盛り上がっていくと思うので、そこはしっかり根を張って続けていって、そしてもう一つの方向性として、それこそラジオもそうですけど、新代田って街に来られなくてもえるえふるを楽しんでもらう仕組みを作ることって、もう今は自分で出来るじゃないですか。
だから、えるえふるってものを自分自身少し客観的な立場から“利用”するつもりで、どんな人でも楽しめる“メディア”にしていきたいですね。
※5 YACHT。2017年12月に新代田駅にオープンした刺繍機とガーメントプリンタのあるオープンスペース。
(http://yacht.maison/)
タイラ:話を聞くと、會田さんにとってえるえふるっていうお店は職場や仕事だっていう感じがしないんですよね。バンドをやるのと同じテンションだなぁ、みたいな感覚を感じます。お店をやる事も會田さんにとっての表現の一つというか。
會田:そうですね。バンドも飲み歩きのブログもずっと同時並行してましたけど、僕の中では全く境がなくて、両方とも自分の好きなことを伝えたい、やりたいことをやってるっていう意味では“表現”として同列なんです。それはえるえふるも同じ感覚ですね。
タイラ:なるほど。じゃあcore of bellsも含めた音楽活動・バンド活動があって、飲み歩きのブログがあって、もう一つのラインとしてえるえふるっていうものが出来て、またえるえふるから新しく発信出来る色んなイベントだったり提案みたいなものが増えていっていると。じゃあもう高校生の頃に思った好きなことだけやってっていうのは実現出来ているかもしれませんね。
會田:そうですね、少しずつですが!
タイラ:だいぶもう近いんじゃないですか?あんまり嫌なことしてなさそうです(笑)。
會田:う~ん、敢えて言うならですけど、お客さんの料理に対する期待というか、「あれ食べに来たのに今日ないの~!」みたいに言われるのがちょっと辛いくらですかね(笑)。僕、大したもん作れないし、角打ちに少し毛が生えたくらいのつもりでやってるので、特定の料理を目的にウチに来てくれるっていうのが、かなりプレッシャーで(笑)。まぁそのくらいですかね~。
タイラ:でもあの環境で一人で料理も作ってお酒も回すってめちゃくちゃ大変ですよね。手の込んだものをやっていこうとしたら結構難しいでしょうし。今の冷蔵庫に入っててっていうスタイルだから成り立つ部分は大きいですよね。
會田:そうですね。冷蔵庫のスタイルもそれこそ飲み歩きに散々行ってたからあの発想が浮かびましたけど、全部その場で手作りだったら絶対無理でしょうね!(笑)
タイラ:でも4月に入る新しいスタッフさんは料理できるんですよね?
會田:もちろん出来ます!本当に美味しいおつまみ作ってくれるんで期待しててください!
タイラ:それはまた楽しみですね。もう少しで3周年。3周年とか何か良いすね、区切りというか、「続いた!」っていう。
會田:ですね!3周年イベントとかも計画中です!もっともっとえるえふるで遊んでいこうと思います!
あとがき
「好きな事だけをやって生きる。」
もしかしたら多くの人が一度はそれを夢想するかもしれないけれど、
そのほとんどはそれぞれの現実に直面して頓挫してしまう。
會田さんは持ち前の行動力とポジティブシンキングでそれを実現している数少ない人だ。
バンド/飲み歩き/お店/ラジオなど色んな事が並列に會田さんの「好きな事」。
しかもその「好き」の度合いが突き抜けている。
突き抜けているからこそ妥協は出来ず、妥協なく真剣にやる事から生まれる真の楽しみも更に見出し、
普通は苦労になってしまうような過程の時間すらも楽しみの時間に変えてしまう。
會田さんの「好き」はその全てが彼の「表現」になり、
それぞれがそれぞれに影響を与えながらまた新しい「好き」と「表現」を創る。
俺ももっと彼の突き抜けた「好き」に触れたい。
またえるえふるに豆乳ハイ飲みに行きます!
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