Text:秋摩竜太郎 Photo:新保勇樹
佐々木亮介のソロツアー最終公演『Juke Joint Tour “Hello, My Name Is LEO”』が10月2日、渋谷WWW Xにて行われた。ソウル全盛時代を彩ったメンフィスのロイヤル・スタジオで、レジェンド級のセッションマンとともに完成させられたソロ処女作『LEO』。この日渋谷で鳴ったのは、それとはまったく違う音だったけれど、だからこそ本作の表現していることが体現されたのだと思う。
SEのキース・リチャーズ“Trouble”がかかると(この曲が収録された『Crosseyed Heart』もロイヤル・スタジオにて録音)、ウエノコウジ(the HIATUS / Ba)、高野勲(Key)、弓木英梨乃(KIRINJI / Gt)、澤村一平(SANABAGUN. / Dr)、そして片手をポケットに突っ込んだ佐々木がオンステージ。王道ブルースにその日の気分を乗せる恒例のオープニングを飾る。
野生的なリズムが会場の熱気を高める“Hustle”、みんなで歌える往年のヒットナンバー“Land of 1000 Dances”、a flood of circleの“Rex Girl”と、盛り上がりが一気に加速していく。口を尖らせながら爆裂ピッキングをブチかますウエノ、身体もフレージングもハードに動かす弓木、クールな顔で狂おしい旋律を奏でる高野、正確無比なタイム感がフレッシュな澤村。そこに、時に指板をはみ出して弾くロイ・ブキャナンばりの熱量を放つ佐々木が加わり、今回のために集結したとは思えないほどのバンドのグルーヴが生まれている。“Rex Girl”は反則でしょと思ったけれど(笑)、この日会場へ来ていたHISAYOと渡邊一丘はどんな心持ちで観ていたのだろうか。
ここでMCタイム。というか飲酒タイム(笑)。佐々木は鬼ころし、ウエノは缶ビールを手に、「今日で最後だよ、一滴残らず楽しみましょう。乾杯!」とのこと。メンバー紹介を経て、「説明すんのも野暮ったいけど、俺はこんなことが起こりそうだなってメンツは集めたくなかったわけ。今日何が起こるのか、俺もよくわかってない。でも絶対何か起こすから」と宣言し、演奏に戻る。披露されたのはロイヤル・スタジオの歴史的代表作、アル・グリーンの“Let’s Stay To-gether”と、アン・ピーブルスの“I Can’t Stand the Rain”だ。おそらく自作の日本語詞を挟んでいたところにグッときた。
続いて“Night Swimmers”へ。現在のアメリカR&B系ポピュラーソングを意識したコード感、日本歌謡風味のメロディ、ソウルの落ち着いたリズムとハーモニー。それらをライブならではの感極まった節回しで歌ってみせる。ちなみに『LEO』誕生の理由はここにある。ロイヤル・スタジオへ録音しに来る音楽家など数え切れない。その中で、飛び込みの日本人がソウルやブルースの真似事をしても、そこで生きるレジェンドたちに響くわけはない。だから佐々木は自分なりの、今までの自分さえ更新するような歌を歌った。その結果、国境もジャンルも超えて誰も聴いたことがない新しい音楽を生み出すことができたのだ。
さて、セットの前半を駆け抜けたところで、佐々木とウエノのふたり体制、いわく「いちゃいちゃタイム」が始まった。「ブルースもゴスペルもソウルも全部やってて、ジャンルなんてマジ関係ねえって人の曲やります」と、サム・クックの“Bring It On Home To Me”へ。《おまえが大好きだよ》と一部日本語で歌うスウィートな声と、指もピックも使うあたたかいアコースティックサウンドがフロアをやさしく抱きしめる。一転、パンキッシュとさえ言える激しさでプレイされたのは、シカゴ・ブルースの顔、マディ・ウォーターズの“Mojo Working”だ。しかもなんとイマイアキノブ(Gt)の乱入というサプライズまで。間の持たせ方はさすがの一言。ロックファン垂涎の豪華競演であった。
今度はウエノが舞台から下がり、弓木と高野が再登場。バイオリンを手にした弓木は、「うふふ、(本職でないバイオリンは)無理ですって言ったんですけどね♡」と恥じらっていたけれど、この編成による“コインランドリー・ブルース”には、胸をかきむしるようなドラマチックさがあった。お次は佐々木、高野、澤村が奏でる“Same Drugs”(チャンス・ザ・ラッパー)。B.B.キングがブルースの枠を広げ、マイルス・デイヴィスがジャズの壁を壊したとするならば、その精神を今のポピュラーミュージック界で爆発させているのがチャンスである。だからこその選曲であり、それをあくまで自分のボーカルスタイルで叫ぶ佐々木。いわゆるブラック・ミュージック、アメリカン・ミュージックの根本的な大流を、ここまで自身の表現に昇華している佐々木亮介という男は、シーンの中で極めて貴重な存在だと思う。
もう一度フルメンバーに戻ると、“Roadside Flowers”を、近年逝去した新宿ロフトの小林茂明、つばきの一色徳保、BOOM BOOM SATELLITESの川島道行に捧げた。ここからはラストまでノンストップ。佐々木のしゃがれ声さえ可愛く聴こえるダミ声で歴史に名を刻むハウリン・ウルフの“How Many More Years”から、ジョニー・エースの“How Can You Be So Mean”へなだれ込む。“Sweet Home Battle Field”では弓木の速弾きとダイナミックな勢いがフロアに火を付け、“Uptown Funk”では会場全体が揺れていた。マーク・ロンソンがブルーノ・マーズを迎え、グラミー賞を獲得したこの曲もロイヤル・スタジオの録音だ。冒頭にラップが追加された“Strange Dancer”は、《まだまだやるぜ まだまだやれるぜ/想像力 創造力/何か起きるかもな/何か起こせるかもな》の部分(書き起こしにつき表記は筆者によるものです)と、仰向けになり、ものすごい形相でギターをかき鳴らす姿に、なんだかこの世界は自分の意志で変えていけるのかもしれない、といった不思議な活力を与えられた。
濃厚な時間もいよいよフィナーレの時を迎える。「またやるね、また会おうね。ほんとにどうもありがとう!」。そう語ると、“Blanket Song”のハッピーな空気とともに本編の幕を下ろした。アンコールは佐々木ひとり。届けられたのは“無題[No Title]”。魂と喉と弦をただただ震わせ、最後はマイクすら使わず、《君を愛してるよ》という気持ちを直接伝える。彼がステージを去る瞬間、一際輝きを放つものがふたつあったように思う。それはこの日何度も掲げられていたピースサインと、アコースティックギターに施されたサウンドホールのデザイン、つまりハートマークだ。ラブ&ピースなんて似合う男だったっけ? でも31歳になった佐々木亮介は、これからもっと新しい景色を見せてくれるはずである。
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