ダンスミュージックシーンを包括してしまった最大級のフェス
取材・文 高岡謙太郎
2017年現在、国内最大のダンスミュージックフェスティバルが「ULTRA JAPAN」となっていたことは、みなさんお気付きだろうか。EDM派生のアーティストがヘッドライナーを務めるためEDMフェスと思われがちだが、電子音を用いたダンスミュージック全般を扱うフェスとなっている。今年で4年目を迎え、集客は3日間で12万人。ちなみに今までに日本国内で行われたダンスミュージックフェスの中でも過去最高の集客数となっている。
この状況は、現在減少傾向のロックスターと入れ替わるかのように、EDMスタープロデューサーがその位置に存在するようになったと考えても良いだろう。90年代は洋楽のロックによるスタジアム・ロックが巨大フェスの主流だったが、その代わりに台頭したのが万単位の集客数のあるダンスミュージックフェスで、まさにメインストリームのカルチャーが変化したといえる。この枠組みを凌駕するフェスティバルのフォーマットはまだ見受けないので、この先数年は続くはずだ。
さて、なぜ現場にここまで大勢が集まるのか。出演するアーティストの豪華さだけでなく、フェスの期間だけ設営された特設ステージの豪華さも一因だ。映像演出された巨大なステージに吊るされたラインアレースピーカーから放たれるトラックは、はるか上空から鳴り響いてオーディエンスを熱狂させる。フェスティバル仕様のダンスミュージックは、キャパシティの小さいヴェニュー向けに作られたクラブミュージックでは体感できないダイナミックな鳴りを提供し、コンテンポラリーな音楽体験を作り上げている。
なぜ自分がこういったフェスに足を運ぶようになったのかというと、もともと90年代にテクノが輸入された盛り上がりを体験していたので、それに続く世界規模のダンスミュージックのムーブメントの噂を耳にしたことが大きい。個人的に、こういった巨大フェスを批判している人の多くは現場に足を運んで体感していない人が大半のように見受けられ、90年代にクラブに通わずにクラブミュージックが批判されていたことを思い出してしまう……!
とにかくダンスミュージックに興味のあるリスナーなら、現状のダンスミュージックを語るために足を運ばざるをえないフェスなのは間違いないだろう。今年の見どころは、明らかに広告費が投入されて国内で話題になったCalvin Harrisよりも、ヒットチューンを着実にリリースし続けスターダムに登りつめたThe Chainsmokersのふたりであることは間違いない。時流を背負った彼らが出演した台湾と日本2日目の開催をレポートしたい。
フェス慣れしたオーディエンスの集う「Road to Ultra Taiwan」
台湾は成田から飛行機で3時間ほど。沖縄よりも南方に位置するため、開催日の9月10日も蒸し暑く南国の雰囲気。3年目を迎える「Road to Ultra Taiwan」は1日のみの開催だ。ヘッドライナーは、The Chainsmokers、Martin Garrix、Zeddなど納得の人選。日本と同じく、昼からスタートして、夜には終わるという健全なタイムテーブル。チケットは完売で、スタッフは2万7千人の来場だと言っていた。
会場となる大佳河浜公園は、台北市内中心部から1時間もかからない。ただ入口まで迷うのでシャトルバスかタクシーで来場するのがベターだ。会場に到着すると、入場待ちの千人近い若者の長蛇の列。Supreme、ANTI SOCIAL SOCIAL CLUBなどの流行のストリートブランドを身にまとった小綺麗な服装が多い。フェス側が提示したファッションに追随することなく、自分たちの普段のファッションを着飾ってフェスを楽しんでいて、フェス中も馬鹿騒ぎするわけでもなく品位を保ちながら真摯に音楽に接し、フェス慣れをしていて好印象であった。
ステージはメインステージのみ、企業ブースもSONYのみという至ってシンプルな会場内。会場内各所に巨大なディスプレイが設置され、リアルタイムでステージの状況が中継される。それもあってかフェス全体の一体感が高かった。酷暑の中の開催ということもあって、陽の照っている日中はディスプレイからの中継を座りながら観賞している集団が多く見受けられた。
台湾だからといって、DJたちのプレイ内容が大幅に変わることはない。フェスティバル向けのプレイスタイルで、どのDJもBPMを合わせることより、インパクトのあるドロップを繋いで盛りあげていくかが腕の見せ所となっている。矢継ぎ早にドロップが投下されるプレイスタイルは、Youtubeでミュージックビデオをザッピングしている世代にはたまらないグルーヴ感だ。盛り上がるジャンルは、ビッグルーム、トラップ、ダブステップ、ジャングルテラーが中心で、フェス映えを意識したトラックが掛かるたびに歓声が上がった。
会場に熱気を帯びるのは夜に差し掛かってから。ステージのライティングがまばゆく輝き、クラウドの熱狂が高まる。『DJ Mag』のDJコンテスト企画「TOP100DJS」で2017年の1位に輝いたMartin Garrixから引き継いで、トリを務めたのはThe Chainsmokers。強烈なドロップのトラックと、自らマイクを握るメロウなポップチューンを力技で行き来するライヴDJスタイルは、彼らならではであり今年ならではのパフォーマンスだ。歌ものがプレイされると同時に合唱するオーディエンスの多さに驚かされた。
個人的には、フーバーシンセが鳴り響く90年代初頭のレイヴチューン、Human Resource”Dominator”が掛かった瞬間に鳥肌が立った。他にもThe Chemical BrothersやDaft Punkなどの往年の名曲を織り交ぜる幅広さも楽しさのひとつ。テクノのDJはEDMのトラックをプレイしないが、EDMのDJはテクノのトラックをプレイするところが面白い。ラストチューンは”Coldplay & FKYA & Khøst vs. The Chainsmokers ft. Daya & W&W & Illenium & Zomboy vs. Papa Roach – Yellow vs. Don’t Let Me Down vs. Last Resort (The Chainsmokers Re-Edit)”。エクスクルーシヴ感を出すための過剰さあふれる曲名が新鮮だ。目まぐるしく展開しながらも綺麗に落とし所を作る構成に打ちのめされたオーディエンスによる歓声が鳴り止まなかった。
曲が終わると同時にステージ上からありったけの花火が打ち上げられ、22時過ぎに終演となった。オーディエンスが夜遅くまでたむろし、希少な一夜の余韻に浸っていた。会場からオフィシャルのバスの停留所まで距離があるので、帰路に着くまでの体力を取っておかなければならない。台湾でもダンスミュージックフェスが定着していることを目の当たりにした。
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雨の中、熱狂が水蒸気と化した「Ultra Japan」
「Road to Ultra Taiwan」から一週間後。Ultra Japanは、今年もお台場の公演一帯を「TOKYO ODAIBA ULTRA PARK」と称して、3日間開催された。筆者が通うのは3年目。年々集客が増え、フェスの種類も増え、ここ数年はシーンが広がっているのが手に取るようにわかる。
今年のULTRA JAPANのラインナップは、ライヴステージが追加されて90年代から現役で活動するテクノユニットUnderworldから日本人のラッパーKOHHまで、昨年に引き続きさまざまなダンスミュージックのジャンルを一層取り入れる枠組みとなった。
ULTRA JAPAN2日目となる9月17日は、延々小雨が降りしきる中の開催となった。会場内は傘の持ち込みが禁止のため、全員レインコート姿という普段見慣れない光景。傘含め棒状のモノを持ち込めないので旗を掲げる人は少なかった。一時間ほど歩けば靴の中が濡れてしまう状況にも関わらず、会場はほぼ満員で大盛況。やはり、この日を逃すと見ることのできないアーティストの活躍を生で見たい人々が多いのだろう。他のフェスとは違った熱量を感じた。
巨大なメインステージは今年もLEDディスプレイが最高の視覚演出を提供してくれた。各アーティストのプレイも天候に関係なく冴え渡る。Slushiiのプレイでは、日本人に馴染みのあるテレビ番組「北斗の拳」や「笑ってはいけない」などからのボイスサンプリングを使ったダブステップで心を掴んだ。ドラム&ベースユニットPendulumの変名であるダブステップユニットKnife Partyのステージから日が落ちてステージの照明のみになると、雨と客の熱気が一体となった水蒸気が照らし出される。屋外に居るのにミストサウナのようなムンムンした状況だ。湿度の高い異様な熱気がテンションを高めてくれる。続いてHardwellのプレイする、硬めで音圧高めのキックがフロアの後方まで届くビッグルームでフロアの熱気は最高潮に。
自分含めずぶ濡れになった数万人が、ラストのThe Chainsmokersまで熱気を高めていった。雨天もあってお得意のステージ上でジャンプするパフォーマンスが見られなかったが、悪条件をものともせず最後まで釘付けにさせるステージとなった。自分の隣にいたカップルが歌詞を口ずさんでいたのがとても印象的で、アンセムを持っているアーティストはいつの時代でも影響力は大きい。台湾と若干プレイリストは違ったが、ラストは”Don’t Let me down”のリミックスでブチ上げて終了。帰宅時には雨も上がっていたが、今年一番過酷で熱狂的な音楽体験の現場に参加できたことに感謝したい。
世界規模のムーブメントをアジアから見つめ直す
さて、様々なフェスを比較して、大きな違いを感じたのはオーディエンスだ。台湾は、流行りのファッションを身にまとい、至ってクールで礼儀正しい。「最先端のファッションで最先端の音楽を楽しみに来る場」という前提がオーディエンスの中で無意識のうちに共有されているのだろう。むやみに羽目を外すことなく、フェス慣れして洗練された立ち振る舞いが印象的だった。
そういった客層に関連することだが、台湾の会場に入ってまず驚かされたことが、オーディエンスを隔てる柵が圧倒的に少ないこと。台湾では主催者とオーディエンスの信頼関係で場を成り立たせていることが伝わる。フェスに慣れたマナーのある客を育てていくことでコストが削減できるのだ。客の質を問わずに、とにかく人を集めて騒げればいいということになると、柵や禁止事項が増えて逆にコストがかかってしまい居心地が悪くなってしまう。このバランスが取れていない音楽フェスは長続きしないはずだ。
このフェスに対する信頼感は、台湾の国旗を掲げるオーディエンスの多さにも繋がるだろう。世界と連動したムーブメントの中で、自分自身を形成する国家というコミュニティをどれだけリプレゼントできるかということが重要になってくる。台湾では世界に恥じないオーディエンスとしての遊び方が自然体でこなせているのだ。世界的に連動した音楽シーンの一端に参加するオーディエンスとしてフェスに参加している。日本は熱量に関しては台湾以上の熱量を持っているのだから、世界と連動したムーブメントだという意識が日本のオーディエンスにも高まれば、より一層濃い盛り上がりになるはずだろう。
Source: FNMNL フェノメナル