前編ではATATAの結成から活動初期の話、そして奈部川さんの音楽的なルーツからくる音楽観と精神性の話を聞いた。
前編のインタビューにも度々出てきた「多分音楽はずっと死ぬまでやる」という言葉。
そのために奈部川さんはどんな考えをもって行動してきたのか?
後編では、その全ての思想と行動の根底にあるアティチュードについて話を聞いた。
Interview & Text:タイラダイスケ(FREE THROW)Photo:おみそ
<ATATA / The Next Page>
奈部川さんの仕事遍歴と「やべぇ俺なんもねえ!」から考えたこと
タイラダイスケ(以下タイラ):「音楽は一生やるっていうのは決めた」と伺いましたが、差し支えなければ今までの仕事の遍歴を教えて頂いても良いですか?最初はアルバイトしながらバンドをやっていたんですよね?
奈部川光義(以下奈部川):バイトしながらやっていて、そろそろちゃんと音楽やるためにどうしようか考えた時に、なんとなく「多分就職しちゃったほうがいいな」ってふと思ったんだよね。逆にちゃんと休みが定期的にあるほうが自分も定期的に予定組めるんじゃないかって考えて就職したんだよ。
タイラ:それは何歳ぐらいの時ですか?
奈部川:20代後半かな?それがBANDWAGONを始めるとき。それでBANDWAGONやめた時に転職したらそこが倒産しちゃったわけ。で、これは困ったなと。何もなくなってしまったときに自分を振り返ってみて「やべぇ俺なんもねえ!」っていう。手に職もないし、口先八丁だけだったと(笑)。
タイラ:その時はどういう仕事だったんですか
奈部川:その時はいわゆる不動産やらなんでもやってたとこでね。うさんくさかったんだけど。うさんくささゆえにつぶれちゃって。それがBANDWAGONを止めてからATATAを始めるまでの3年間の間に起こって、じゃあこれからどうしようかって考えた時に「人がやらない仕事やろう」って思って。「人がやらない仕事って何だろう?そこには仕事があるんじゃないか?」って考えたときに「あぁじゃあ福祉とか介護とかがいいな」ってなって、介護の世界に飛び込んでいって。
最初はみんな「大丈夫?」って言ってたんだけど、やってみたら結局全然平気で。せっかくこの世界に飛び込んだなら取れる資格は全部取ろうと思って。「何年目にこの試験を受けてこの資格取って」って目標を立てて、5年たった時には取ろうと思った資格は全部取れてた。で、取れた資格を利用して今は転職をさらにした。これからも取りたい資格があと何個かあるんだけども、一応自分の中では何年後っていうのを決めてやっていて。
だからなんか軸があってさ。仕事は「自分の何年後に何があって」って考えるし、ATATAに関しては基本楽しさでしかやってないんだけど、若いころとは違って「節目節目」はなんとなく考えるようになったかな。やっぱり自分が40超えると、体力的にどれぐらいできるんだろうっていうのは見えてくる。精神力は落ちないと思うんだけど、体力的にはじゃあ具体的に何がどのくらい出来るのかってなんとなく俯瞰できるようになっちゃって。そうなってきたからこそ、若いころよりも目標を持ってやってはいるかな。やるようになった。
<ATATA / Song Of Joy>
やっぱり「なにか人の役に立ちたい」
タイラ:仕事に関してですが、資格を計画的にとっていたりとか、すごくモチベーションがあるなあっていう気がしますね。
奈部川:音楽と一緒なのかもしれないけど、ただやっていくと時間って過ぎてくじゃん。で、若いころよりも時間のスピードって速いのよ。体感二倍くらいになってるから。そうなったときになんか自分で区切りというか節目を作らないとどんどん無意識に時間が進んじゃうというか。だから自分で節目は作ったほうがいいなと思ってやってるっていう。
タイラ:仕事自体に関しては、つらいも楽しいもどっちもあるって感じですか?
奈部川:どっちもある。何のために仕事やるんだろって考えた時に、やっぱり「なにか人の役に立ちたい」ってことを35歳で今の仕事に就くときに考えたのね。(前の会社が)倒産しちゃって俺何やろう、じゃあ人がやらないことをやってみよう、人がやらないことをやったら、もしかしたらちょっとは人の役に立てるのかなっていう気がして。じゃあ残りの人生、なんか多少役に立とうかな、みたいな。いままでさんざん好きなことやらせてもらってきたから。
タイラ:その時の気持ちで仕事を選んで、今はちゃんと喜んでもらえてますよね。
奈部川:そうだね。だから思ったのは、自分の会社が倒産したときに思い出すのって…取引先の人とかの顔は思い出せるのね。なんだけど顧客っていうかお客さんの顔って思い出せないの。これってなんかあんまり幸せなことじゃないなと。どうせやるんだったらユーザーの顔を覚えてたい。だから今の仕事はすごくユーザーが直だから、わかりやすいっていう。
タイラ:俺もライブハウスで働き始めた時に、一番良くないなぁと思ったのは、結局ライブハウスのスタッフってバンドマンとかオーガナイザーとかとは話すけど、お客さんとはあんまり喋らないじゃないですか。チケットを買ってきてくれてるのはお客さんなのに、その顔を見てないって本末転倒じゃないか?と思った時があって。その当時は結構意識してお客さんと仲良くなりたいなって思ってました。
奈部川:誰のためにやってんのっていったらお客さんのためだからねぇ。お客さんが喜ぶことをやるべきだからさ。
ATATAが開催するフリーライブツアーについて
タイラ:今のATATAの活動についてもちょっとお話を聞かせてください。ライブDVDを出して、また入場無料のツアーを周りましたよね。
奈部川:そうだね。今までだって無料でワンマンもいっぱいやったし、前回のミニアルバムのツアーは全部無料でやったし、今回も3カ所全部無料でやったんだけど、なんかね、前回のミニアルバムのツアーが終わった時にあんまりこれやりすぎると価格破壊になっちゃうかもっていう意見もあったり、やめた方がいいのかなとも思ったけど、でも去年の9月に今回のDVDを作る理由になったワンマンをやって。それはお金をちゃんともらってやってそれで満員になったんだよね。そこでいい意味でふっ切れて。「もう金関係ねえ!」ってなって(笑)。
それまでどこか不安だったの。タダじゃないと来てくんないのかなとか。でも「お金とってもみんな来てくれんだ!」みたいな。で、それがもう実証出来てわかっちゃった以上「もう関係ねえ。それよりみんなが楽しいことやる。」って。
タイラ:すごく素朴な疑問なんですけど、無料でやっても色々交通費だったりとかがかかるわけじゃないですか。そういうのは物販とかでうまくやってるってことですか?
奈部川:うん。全部物販。
タイラ:お客さんがそれは協力をしてくれてっていうか、粋に思って買うってことですよね。
奈部川:なんかね、物販について投げ銭みたいな感じで誰かに施されて買ってもらうのも嫌だから。物販は物販で人が欲しいと思うものを作らないとお金はもらえない。お金をもらう資格がないというか。だからかっこいいものを作ろうとずっと初めから思っていて。
タイラ:こだわりも感じますし、アイテム数もすごいですもんね。
奈部川:でもね、自分のそのプライドでやってきたんだけど、別に俺らのこと言ってるんじゃないんだけど、ある日誰かが「物販ってそのバンドが好きだから買ってる」って言ってて。そのときになんかちょっと鼻がへし折られた気持ちになって。それまではプライドもあったわけ。俺らは施されてない、いいもの作ってるから買ってくれてる、って。かっけーから、おしゃれだから買ってくれてるって思ったんだけど、あ、そうでもないんだと。
タイラ:それはどっちもあるような気はしますけどね。好きなバンドでも悩むじゃないですか。どれ買おうかなぁとか。逆にどんなにデザインがかっこよくても、そのバンドのTシャツを来ている自分を自分で許せないときとかもあると思いますし。「おしゃれだけど、このバンド好きだと思われたくないな」とか。両方兼ね備えてないとって感じですけどね。
奈部川:うん。だから本当に物販だけでやっていけるこの状況があるということはみんな自信をもって俺たちのロゴなりバンドの名前を背負ってくれてると思うと、すごくありがたいなと思うよ。 やっぱ自分がThe ClashのTシャツ着るときってここぞってときじゃん。
タイラ:音楽的なものだと特にそういう主張はありますよね。フリーライブはライブハウス的にもメインの夜じゃなくて、いつも稼働がない昼間にやってくれてるからオッケーっていう事なんですが?
奈部川:そうなんだよね。それももちろんあるよ。だからぶっちゃけていうとものすごく(ホールレンタルの)料金が安いし。最初はそれこそライブ組む時に東京では昼やってるところがあったから話も早かったんだけど、地方に関してはやってないところがほとんどで、逆に「値段設定いくらにすればいいんですか?」とか聞かれるような状況でほとんど手探りでやったんだ。で、イベントでフリーテキーラにしたいって相談したら「そんなことしたらお酒売れないじゃないですか」っても言われて。「いやいや!一回やってみて!馬鹿みたいに酒出るんで!」ってやったらやっぱりみんなよくお酒飲んでくれて。やっぱりテキーラ一発飲むとみんなエンジンかかるみたいで楽しい感じになって(笑)。
タイラ:地方だと特に車で来ちゃったりとかするんで、「テキーラタダで飲めるんだったらそれ用に準備してこようかな」みたいなのもあるのかもしれませんね。一杯目を飲むか飲まないかは心構え的にちょっとでかいかもしれないです。
奈部川:まぁ昼間だからね。みんな終電も気にしないで電車で来る率も多いし。だから昼やっても、最初想定したデメリットは何もなかったの。逆に良いとこしかなかった。それで、想定もしてなかった一番の驚きは昔ライブに来てた人も来るようになったの。脇には嫁さんも子供もいて。それで全部分かったんだ。あぁ別に興味がなくなったわけじゃないんだって。ただ単純に生活があって家族がいて子供が出来て来にくくなっただけなんだ。それが昼にしてみた無料にしてみたら「来た!」っていう。
タイラ:俺がやっているFREE THROWもやっぱりオールナイトにはこだわってやってるんですけど、夕方のパーティーになると来れる人いますよね。
奈部川:だから俺、今回具体的にやってみて得た結果っていうのは大きいなって。だからこれからも昼のライブはやっていきたいかな。基本自分たちも昼の方が楽だし。もちろん夜も楽しいし、雰囲気がやっぱり違うしね。でもなんかね、昼間の方が不思議とマジックは起こるような気がする。なんかさ、異空間になるんだよね。外は真昼間じゃん?でも中に入ると真っ暗。でまた出るとき真昼間。なんか時空がゆがむというか。
タイラ:どこか悪いことしてる感じがでるんですかね?明るいうちから酔っぱらっちゃった、みたいな。しかもまたそこから一日は長いですからね。
奈部川:昼間だし、みんな仕事終わってから来てるわけじゃないから超元気なの。
タイラ:ATATAのライブの後にも飲み行っちゃったりとか(笑)。
奈部川:そうそう。だから地方でも、東京から来た人がそのまま観光したりとかそういう光景もあっていいなあとか。
タイラ:元気だったら夜のライブもはしごできちゃいますからねえ。
奈部川:はしごできちゃうし、時間帯が違うから誰かとバッティングすることもない。だから悪いことなんもなかった。
タイラ:しかもフリーですもんね。
奈部川:今まで見たいなぁって思ってきっかけがなかったくらいの子も気軽に来れるし、本当に良いことしかないよね。だからもっと浸透すればいいなぁと。で、またそこで音楽とお金の話になってくると思うけど、方法論はあるから手探りでやれば必ず見えてくるし、だからみんないろんなこと試せば?って。
奈部川:俺、おばあちゃんがアメリカに住んでて、行けばライブも必ず行くんだけど、よく「ロックの本場は外国だ」なんて言うけど、そんなことはない。環境から考えたら、ロックの本場は日本だよ。こんな密集した中にライブハウスがいっぱいあって、どこ行ったって環境も音も良くてって、こんないい国ないよ。アメリカなんかで言ったらほんとにロスだったらライブハウスが集まってるのって、ハリウッドからちょっと出てサンセット・ストリップってところにウイスキー・ア・ゴー・ゴーとかハウス・オブ・ブルースとかが固まってるだけで、他の場所には何もないからね。あとみんな自分の家とか倉庫とかで(ライブを)やるしかないから。そこから考えたら日本が一番いいよ。
でも日本って環境があるからこそ、もうルールみたいなもんが出来上がってるの。「ライブは夜です」「ワンドリンクです」「ノルマです」みたいな。だからね、そこをちょっと一旦疑ってみて、自分たちなりの方法論でぶち壊していって、みんな色んなやり方すればいいのに。ツールもソフトもあるしハードもあるから。あんまり型にはまらず好きなことやればいいんじゃない?
タイラ:FREE THROWはATATAの活動ほどはやれてないんですけど、例えばいつも深夜に営業しているクラブで日曜の昼間にやりますとか、いつも夜に営業しているライブハウスで深夜にやりますとか、やっぱり喜んでくれた箱の人もいたんですよね。要はそこの時間帯でやるノウハウが箱の人にはないからだと思うんです。デイにライブハウスでやります、深夜にクラブでやります、の方がハードル高くって。箱代高えなぁみたいな。まぁそこは普通はまけてくれないですよね、もちろん。
奈部川:俺たちは自分たちで言ってんだけど、隙間産業だから(笑)。
タイラ:でもまあそんな気持ちはありますよね。なんかお互い補いつつやりましょうよっていう気持ちというか。
ATATAのバンド運営哲学
タイラ:ATATAはバンドのスタジオ代とか諸々含めて、運営っていうのは全部バンドのお金で賄えてるんですか?
奈部川:俺たちね、別にそこは話し合ったわけじゃないんだけど、基本ツアーに関わることとか、レコーディングに関わることとかはちゃんとバンドで貯金してあるから、そこから出す。だけどバンドから個人は基本お金はもらってなくて。で、なんとなく練習スタジオ代も自分たちの財布から出してて。
話し合ったわけじゃないんだけど、なんかね…練習代を、ほんとにバンドの基本になること、基礎になることを音楽から得たらだめになるような気がする。だってお金もなかった時代ってスタジオってもう超きつきつでやってたじゃん。なんかあの感じはずっと持ってないとだめになるというか。
タイラ:自分の財布からお金が出ていくことによって、真剣度というか、何千円分やらないとまずいぞっていう気持ちをずっと持ってたいってことですよね。
奈部川:でもまあもう大人だからさ、それくらいは全然痛くもかゆくもないんだけど(笑)。でもそれは大事にしたいなっていう気はするよ。俺たちスタッフいないんだけど、スタッフ雇わないのも結構その考えに沿ってるのかな。「楽器は自分たちで運ぼう」とかそういうものがないと音楽としてというかバンドとしての在り方・根本がぶれるような気がするんだよね。自分たちで楽器運んで、スタジオ代を自分たちのお財布から払って。もしかしたらそうじゃなくても出来るのかもしれないけど、でもなんとなくそういう風に思うかな。
タイラ:今までの話しを聞くと考え方がすごく一貫してますね。
奈部川:みんな無言のうちに暗黙のルールみたいなのがあって、それが何から来てるのかっていうとそれはDIYのバンドの方法論を見てきたから。そのみんなの経験と知識というか、自分が触れてきた文化にあくまでも沿おうっていう感じがあるかな。
タイラ:話してルールを決めたわけじゃないっていうのが逆に自分はグッときますね。ATATAはもとからその同じ根っこがある人たちで始まったバンドってことですよね。
奈部川:まずバンドっていうのは好きでやってんじゃん。好きで集まったんじゃん、俺たちって。別にこれで飯食おうって集まってないから。だったら好きなことって基本自分のポケットマネーからやるじゃんって。そんな感じはあるかな、なんとなく。
奈部川さんの「生活」と「音楽」のこれから
タイラ:なるほど。じゃあちょっと最後まとめの話しなんですけど、バンドの話もお仕事の話も聞いてきて、まあ仕事のお話ではちょっと先の目標を聞いたんですけど、バンドの目標ってなんかあったりします?
奈部川:バンドの目標…、そうだね…肉体的にできなくなるまでやる!
タイラ:でもそれは当分先ですよね?
奈部川: 40超えたぐらいから「なんかやべえ、残り時間少ないぞ…」って思ってたんだけど、俺の上の世代まだぐっちゃりいて実は。50の人たちもやってんじゃん、KEMURI(※1)にしてもそうだし。50だもんね、やってんだよなぁ。負けてらんないなみたいな。でも俺は絶対トレーニングとかしない!(笑)
※1 日本を代表するスカパンクバンド。ATATAとは2014年のツアーで共演している。
タイラ:アスリートみたいにはならないっていう(笑)。
奈部川:パンクスはトレーニングしない!自堕落な生活を送る!(笑)
タイラ:ナチュラルで勝負っていう(笑)。でも体が動かなくなるまでっていうのは…すごい決意ですよね。動く限りはやるってことですからね。
奈部川:100メートル走れなくなっても、50メートル走れるんだったら、それまだ体力あるじゃん。だからその自分たちの体力に応じてやってくだけ。でもずっと走る。それが10メートルになってもとりあえず走る。止まんない。もしその速度落として競歩になったらまだ100メートルいけるんだったらスピード自体を落とせばいいし。どっか怪我したときは少し休めばいいし。そんな感じかな。
なんかあんまり今回の仕事と音楽っていうメインテーマに沿ってないかもしれないけど、でも俺の場合はやっぱり音楽って…ライフワークなので。だから…長く続けることが大事。長く続けるためにどうするかだから。そこで例えば音楽で飯が食えなくなるかもしれない、じゃあ飯を食う方法を考えよう。そんな感じかな。
だからそれが例えば仕事をすることで飯が食えて音楽が続けられるんだったらそれもベストだし。なんだけれどもこのままちょっとそこに賭けてみて、音楽だけに絞った方がずっと音楽できるかもしれない。そういう人はもちろんそれで良いと思うし、方法は一つじゃない。そんな気はするかな。まじめに考えるとついつい生きるか死ぬかになっちゃうから。
タイラ:その考え方も個人的には美しいと思ったりもしますけどね。
<ATATA / Star Soldier>
奈部川:なんだけど、さっきの話しの根本に戻るけど、元々俺が好きな音楽がメインストリームの音楽じゃなかったじゃん。俺がその音楽に影響されて音楽やってんだからメインストリームになるわけないって最初に思った。だからある程度自分が(商業的に)どこまでいけるかを最初から決めちゃってたってとこがあったのかもしれない。俺が聴いてる音楽がここまでなんだから、俺が作ってる音楽もここまでだっていう。でもそれがかっこいいって思っちゃってるんだから、「それで納得!」みたいな。
タイラ:ここまでっていうのはその音楽の素晴らしさの限界って意味ではないですもんね。
奈部川:別にね、たくさんの人に聴かれたからいい音楽ってわけでもないじゃん。聴いてる人が少なくてもいい音楽はいい音楽だし。音楽の優劣に知名度は関係ないから。
要は俺の作った歌詞とメロディーで誰かを感動させたいわけじゃん。でもその感動させる先はテレビの前の人じゃないんだ。みんな普通に働いて、闘って生きてきた人たちじゃない?その人たちを感動させるには、俺がセレブになったら感動させられるわけないなぁと思って。同じ目線で同じ経験をして、それを言葉にしてメロディーにするからその音楽は届くんじゃないのかなと思う。それが根本なんだよ。だから、そこから離れたくないってのはある。
タイラ:普段月~金とかで働いているワーキングクラスの人たちと同じ感覚でやりたいってことですよね。
奈部川:うん。それで音楽も説得力が出るんじゃないかなって。やっぱりなんか、寝たいだけ寝て、食べたいもの食べて、贅沢もしてっていう人が作った音楽って、現実逃避する為の音楽としてはとてもいいものかもしれないけど、じゃあその音楽がリアリスティックに聴こえるのかっていうと、そこはちょっと違うのかなっていう気がするんだよね。
タイラ:普段の生活と地続きなものが音楽にアウトプットされるっていう考え方ですよね。
奈部川:そう。だから…多分どんなに忙しくても仕事はやり続けるかな。そんなことはないんだけれども音楽で収入がものすごいあったとしても多分やめないかな。週に一回でも働く。
タイラ:じゃあその仕事っていうもの自体も音楽を作るインプットの一つになってるってことですよね。
奈部川:そうそう。仕事が俺の音楽を作る上でのアイディアの一部になってる。
タイラ:プラスな事もマイナスな事も含めて、仕事をしていて感じたものからメロディが出来たり歌詞が出来きたりする事が、奈部川さんが届けたい人にリアルに届く表現の方法論や根源になっているんですね。
奈部川:うん。だから仕事をやってきて見た景色とか、俺の業界でしか使わない単語とかすごく歌詞の中で出てくる。そこは大きいかな。だから切り離してない、全然。同軸のタイヤっていうか、一緒に回ってる気がするかな。どっちもおんなじペースで回んないと迂回したりするみたいなさ。そう思うかな。
あとがき
実は奈部川さんとこんなにゆっくり話すのは初めてでした。
記事には載っていませんが「ところで、タイラくんって何者なの?」という奈部川さんの逆インタビューから始まったこの対談。
少し緊張して話を聞いていったのですが、力強い言葉とは逆に、語り口も眼差しもすごく優しい印象だった奈部川さん。
体が動く限り、一生音楽は続けるという決意と、せっかく仕事をやるなら、意味のある事をやろうという意思。
そして何よりそれを実現するための行動力。
この部分は前回話を聞いた武田君にも通じる部分で、話を聞いた自分自身も、ものすごく心が奮い立たされました。
奈部川さんが意識的にステージの上と下の垣根を外そうするからこそ、その言葉と行動が自分たちにしっかりと届くのだと思います。
そんなところにも自分は奈部川さんにジョー・ストラマーの姿を重ねてしまうのです。
奈部川さんもまた、月に手を伸ばし続ける人。
お話が聞けて、本当に良かった。
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