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【コラム】CIFIKA | 韓国の音楽シーンの変化を体現するアーティスト

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お久しぶりです。久々にビビッときたアーティストに出会ったのでご紹介したいなと思います。

先日韓国の人気バンドHyukohのボーカル、オ・ヒョクとCIFIKAのコラボ楽曲”MOMOM”が発表されました。夢幻的な歌声と中毒性のある電子音サウンド、公開されたミュージックビデオとビジュアルでは既存の他の音楽とは切断された全く新しい姿を披露しています。

国民的人気アーティストIUの次にオ・ヒョクがコラボパートナーにチョイスした事で新進気鋭のエレクトロニックアーティストCIFIKAに注目が集まっています。私もその一人で、個性的なスタイルを持つ彼女に一気に引き込まれました。

CIFIKAは韓国で2016年にデビューするや否や韓国大衆音楽賞の候補に上がり、現在までに様々な海外メディアに次々紹介され、DAZEDでは非アイドルとしては唯一「今月のK-POP」に選定。また、昨年はイギリスのBBCラジオにも招待され、音楽性だけでなく活動自体も韓国の音楽シーンにおいて革新的なエレクトロニックミュージシャンとして他に類を見ない地位を確立しています。

彼女に密着したドキュメンタリーがすごく興味深い内容だったのでそこからいくつか引用したいと思うのですが、イギリスに住んでいた頃からSoundCloudに曲を公開しており、自分のSoundCloudを韓国で多く聞かれている統計を見て、「あ、韓国に行って韓国語で歌って活動してみたい。海外で自分が韓国語の歌詞で歌う舞台が増えれば良いな。」と計画もお金もレーベルもなく家族のいない韓国に来たといいます。インディーミュージックの聖地であるホンデから誕生したのでもなく、クラブミュージックの先端を行くイテウォンでDJをしてミュージシャンになった訳でもなく、これまでの韓国の潮流とは関係なく突然バン!と現れた形になりました。

SoundCloudやSNSといったインターネットの仮想世界において歌をする人だと語られるように、本人のファッションスタイルや音楽性からビジュアルデザインなど、全てが自己プロデュースの下に表現されていると言えます。従来のミュージシャンのようにライブハウスやクラブで公演を何度もしてだんだん有名になる、というより、公演をする前から多くの人に知られているという状況が、まさに新しい登場の仕方で、なんとも今っぽい!という印象です。

特に面白いなと感じたのが韓国の伝説的バンドサヌリムの有名な曲、”青春”を英語の”YOUTH”に変えて発表している点です。普通、誰もが知っている曲のカバーは聞いている側が原曲の印象に引っ張られそうになりますが、自分の音楽スタイルに完全消化した彼女の”YOUTH”はとても新鮮です。

サヌリムのボーカルであるキム・チャンワン本人からも「韓国に久しぶりに本当に音楽をする人が現れたという感じがした。このように歌う女性ボーカルを久しぶりに見た。とても珍しい。」と評されています。

そしてCIFIKAが不思議な印象を与える点として、韓国語の使い方があるのではないかと思います。彼女の韓国語での歌い方、単語の選び方が多くの韓国人に独特だと言われています。例えば歌の中で韓国語と英語を織り交ぜて歌うだけでなく、韓国語と英語で韻を踏んだりする言葉遊びも面白いです。昨年YouTubeを介して大人気になったNY在住の韓国人アーティストYaejiの”Drink I’m Sippin On”という曲で言葉の従来の意味がわからなくなるほどループして「クゲアニヤ」という言葉が歌われていましたが、まさにそれと似た感覚的な言葉の選び方、リズムとして感じる単語の選び方がCIFIKAにも共通するのではないかと思いました。海外に住んでいたからこそ、言葉そのものの意味や文脈の固定観念に縛られず音としての言葉を楽しんでいる、そういった印象を受けました。

また、ドキュメンタリー中で「もちろん最大限自分の好きなことだけをやっていたいが、歌をする人々が歌だけで生きていくのは難しいようだ。」と語っていることに対して、音楽評論家のイ・デファ氏は「大衆がCIFIKAのアルバムを全て知っているとは思わないし、それは難しいことだと思う。でもマニアたちがもっと増えればいいと思う。そういったディープな趣向を持った様々な分野の人々が、その市場を維持していけるほどの規模を持ち、広がっていく事、それが音楽界の1番かっこいい姿であると思う。」と語っています。

GQMagazineエディターJESSE YOUさんは「今、ヒップホップシーンではAOMG(ラッパーのパク・ジェボムやGRAY、LOCOなどが所属するレーベル)が既にそういったポジションにいるじゃないですか。TVにも出る事が出来て、アンダーグラウンドシーンにおいても公演をする事が出来る。そういった新しい形のお金を稼ぐ事が出来るシーンが生まれるようです。今、韓国の人々も正確に定義ができていないが、そういったシーンがあることは本能的に分かっていて、そこに近付いて行っています。CIFIKAはそういった状況で良い時期に出たんでしょう。」と語っています。

特にこのあたりがすごく興味深いなと思っていて、少し前まで日本においても韓国の音楽といえばアイドルの歌うK-POPという印象しかなかったものの、人気番組SHOW ME THE MONEYからヒップホップブームに火が付き、2014年にHI-LITE RECORDS、AOMG、ILLIONAIREといった韓国を代表するレーベルが初来日したのが未だに記憶に新しいですが、今となっては有名なレーベルのラッパーだけに限らず、韓国人のラッパーやDJの公演が日本でも毎月のように開催されているような状態となっています。

バンドにおいてもインディーから大衆への認知を一気に広めたHyukohの影響もあって、韓国のバンド音楽を聴く人はこの数年でものすごく増えていると思うし、実際日韓のバンドの対バン公演というのも珍しくなくなってきたように思います。私は様々なジャンルの韓国のカルチャーが日本にいながら時差なく楽しめるようになったのは、いわゆる韓流ブームの1つの恩恵のように思っていましたが、それだけの話ではないんだなというのを感じました。

日本人が「あ、アイドルの音楽以外にもかっこいい音楽やっている人たちがいるんだな。」と発見するのと同様に韓国においても今様々な音楽性を持ったアーティストを知る機会、そしてアーティスト自身の多様性自体も拡張している時期であるようです。

あくまで私個人の個人的な体感と経験内での話になってしまいますが、韓国に住んでいて、よく人に言われるのが「日本のオタクの多様さ」です。オタクといえば一般的にはアニメの印象が強いですが、実際、鉄道、フィギュア、コスプレ、野球、ゲーム、仏像、カメラ、切手…あらゆるジャンルのオタクが存在しています。それはブームに関係なく必ず一定数のマニアが常に各ジャンルに存在している為、そのジャンル自体が衰退することなく維持されてるのではないでしょうか。

私は雑誌を作っている人間なので、どうしても雑誌目線で考えてしまいますが、雑誌においても趣味のジャンルの専門誌というのは韓国にはあまりに少ないです。一般的なファッション誌でも日本でいう赤文字系青文字系のような分類もなく、ジャンルの振り幅はとても少ないと言えます。(そもそも毎月発行されて本屋に並ぶファッション雑誌の種類というのが日本より遥かに少ない。)

日本でもZipperやCUTIEが休刊となってしまいましたが、韓国できっとああいった個性的なファッションの雑誌を出すことは現状かなり難しいように思います。

例えば実際に日本でpopeyeやBRUTUSがやっているような「とんかつ」「カレー」のような1つの料理だけに注目した特集を韓国料理でやったら面白いのではないかと考えたことがありましたが、1つのものを研究して語れる人もいないし、丸々1冊その料理だけの特集記事を面白いと読んでくれる人がいないと却下されました。映画特集をするとしても日本だったら丸々1冊1本の映画を特集する事が可能かもしれないし、もっといえば1つのシーンを何ページかにわたって解説するような事も可能かもしれない。だとすれば、韓国では1つの特集の中で関連作品を何本も紹介して様々な趣向の人に対応する必要があるように思います。つまり、1つのジャンルに的を絞って売れるだけの各ジャンルのファンの土壌がまだ浅い。

そういう不便さみたいな部分を常日頃感じていたのですが、最近の音楽シーンやこれまでとは違ったアプローチがウケたり、独特なスタイルが支持されているCIFIKAを見てカルチャー全体の多様性や主流以外のものを楽しむ趣向を持った人々が増えていっているように感じました。

ランキングチャートを見てても知らない曲ばかりが並んでいる状況の日本からすると、現在も常にヒット曲を誰もが知ってて一緒に熱狂出来る韓国のメジャーシーンの盛り上がりに羨ましい気持ちがありましたが、CIFIKAのようなアーティストが活動をしていけるだけの様々な音楽ジャンルの趣向を持ったリスナーが増えたらもっと面白くなるのではないかと思うし、ここ最近でそういう可能性を感じるようになったように思います。

それはきっと音楽だけの話ではなくて、カルチャー全体として今韓国にそういう芽吹きの時期が到来しているのではないでしょうか。メキメキとカルチャーシーンが成長している韓国だからこそきっと今年も面白いものがもっともっと生まれるんだろうという期待を込めて、今年最初のコラムとしたいと思います。

Erinam

韓国在住のグラフィックデザイナー ・イラストレーター。

韓国ブランド等のアテンド・コーディネーターとしても活動。

http://erinam-ports.tumblr.com

instagram.com/i.mannalo.you/

Source: FNMNL フェノメナル

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