Text:田中 サユカ Photography:山川 哲矢
12月5日、Nozomi Nobodyの「Everything Goes Back to You」リリースツアー ファイナルが行われた。
会場は下北沢の閑静な住宅街の中にある、静寂と音響のベストコンディションが望める小さなコンサートホール「下北沢ハーフムーンホール」だ。中に入ればナチュラルなホスピタリティ感宿る男子スタッフ勢が「寒くはないですか?」とストーブをつけては周り、赤子連れにはソファ席を用意している。ドリンクコーナーでは、去年ツアー先で出会ったという前橋の紅茶店「ティーストアー by HOATEA」が、こだわりのティーを丁寧に淹れて手渡している。一歩足を踏み入れただけで、そこは上昇志向のメッカでもある下北沢とは別気質の、まるでMV「Do You Know?」の世界観が再現されたような、不思議と懐かしい空間であった。
100人も入れば満員のささやかなホールだ。ここに居合わせなかった者が公園概要から想像するなり、一瞬内輪ライブのように思えるのかもしれないが、そこをまずはっきりと否定しておきたい。この夜は、彼女が選んだ場所も、そこに集う人々もパフォーマンスも…全てにおいて“Nozomi Nobodyならでは”の“志操の高さ”が行き届いた 素晴らしい一夜であった。
まず ファイナル開催を祝して華やかさをプラスくれたのはゲストバンドRopesの二人だ。目の前にはやわらかな2灯と丸みを帯びたエレキギター、指なりパーカッション。1曲目「パノラマ」から「見えない窓」まで、音のテクスチャをなぞらせてくれるような贅沢な時間が冒頭から用意されていたことに観客はまず素直に喜び、味わっていた。あっという間に参加者の一員となった観客と微笑みを交わしながら「意味」や「SNOW」では、音と共に”生”を営む意味を巡る機会を得る。この完成された“時の流れ”は至福そのもので、二人の織りなす共鳴術は、曲を重なる度にソウルフルに艶めき出していくのだった。
「今日はノゾミちゃんの音楽を心ゆくまで楽しんで行ってください…ノゾミちゃんの音楽、大好き。」
アチコが少し照れた様子でそういうと、ラスト「チューリップ」で静寂を調え、始めた。RopesのアチコとNozomi Nobody。キャリアは違うが、どこかパンクな心意気は似ている「かっこいい」女・二人だからこそ共有できる“聖域”が微かに望めてくる。決して力を入れず、力を抜かず…深い懐で織り成された、最良のバトンをNozomi Nobodyに託してくれたのだった。
そしていよいよNozomi Nobodyのライブが始まる。生活音に溶け合うハーモニーが美しい本アルバムのイントロダクションに合わせてNozomiが登場。いつもの弾き語りスタイルとは少し違う、多重録音的側面を予感させる冒頭に観客はドキリとする。それが後に感嘆するほどの展開になろうとは、この時 誰が予測できただろうか…。
ナシュビルのカントリー娘さながらに、Nozomiがアコギに手をやって「In a Silent Room」を静かに歌うところからNozomiのショーはスタートした。歌に徹底的に向き合った本作「Everything Goes Back to You」の醍醐味を象徴すべく、まずは持ち前の繊細でダイナミックな歌唱力で圧倒してみせたのだった。とにかく歌が音源以上に上手い。イマドキそれだけでも十分素晴らしい。
しかし企画力もずば抜けたNozomi Nobodyがすんなりとアルバムをなぞって終わるはずはない!ここで今夜のバンドメンバーであるエレキギター(潮田雄一)とドラム(飛田興一)、そしてベースのガリバー鈴木が登場。3曲目の「Do You Know?」からハーモニーとリズムが品良く重なり、さらなる深みを増していく。こうしてツアーファイナルは“聖なる夜会”へと誘っていった。
「今日は、これまでの“いい感じ”をそのまま出したいと思います!」
アルバムをリリースしてから日本国中を巡ってきたNozomiが言ったこの言葉の価値がすんなり理解できた。日本語で歌う5曲目「ふたり」の色気を帯びた深い中低音に、このツアーで培った“悟り”への道のりを感じながら、多くの観客は片時もNozomiから目をそらすことはなかった。
途中、セットリストを覚えるのが得意なNozomiが、この日ばかりはすっ飛んでしまうハプニングもあり。しかし愛の笑いで満たされるのだから、なんと幸せな場所だろうか!その後、Nozomiファンにとってもレアなカバー曲「Lady-O」や、敬愛なるジュディ・シルへ捧げたとされる歌「Judee」を披露。Nozomiのリスペクトを胸に歌い上げた。
さて、ステージもいよいよ佳境に向かい、ギターの潮田がイルカを呼び寄せ始めた。するとガリバー鈴木が、今度はボディをこすって小々波を映し出す。「Spring is on the way」だ。Nozomiの歌声がそこに乗ると、ここで本作(「Everything Goes Back to You」)では想像だにしなかった“音の視覚化現象”が起きる!個々では見たことのある表現手法だが、それらがシューゲイズとともに増幅すると、具体的な色彩を持たずしても独特の映像美と化した。これは流行りのVJには到達不可能な領域だ。
その膨大なエネルギーは突然鮮やかに爆発、また“いつもの”Nozomiがギターを抱えて立っていた。「This Tiny Night」で再びいつもの艶やかな“Nozomi”を経由すると、再びバンドが登場。「Goes Back to You」で本編を終えたのだった。
アンコールでは、あの日(のインタビューで)話してくれた“あの曲(「生活」)”を遂に披露してくれた。このアルバム制作の最後に生まれた曲…それはやけに感傷的で孤独で、懐かしく、この一年の成長のために負うべくして負った傷や課題を癒していた様だった。
シンガーソングライター道と呼ばれる道には、シンプルなスタイル故の特別深い“樹海”があるのではないか。「全身全霊」の罠が仕掛けられた“樹海”。Nozomi自身、そこを抜ける術を見出した自覚なぞないなのかもしれないが、しかしこのライブを眺めていると、今作「Everything Goes Back to You」の制作当時から今日まで、無意識ながらNozomiなりの自信を身につけ、芸術的にも飛躍的な進化を遂げたことを想像せずにはいられなかった。おそらく、長い旅の一年では、本作を俯瞰でじっくりと、しかも厳しく見つめ直すことともできたのだろう。
ストイックに生きるほど、時に自分に嫌気がさすこともあり、それでも求め続けた往生際の悪い芸術家だけに与えられる“穎達の才”。その場所のすれすれにもう、Nozomiは辿りついたのかもしれない。
「今年は人と関わることを多く学んだ一年でした。地方の人とか、私が行っても正直あまりメリットもないのに、呼んでくれて、すごく良くしてくれる。私は、そういう人たちの気持ちをどういう気持ちで受け止めて行けば良いのか…すごく考えました。」
そう語るNozomiの語りも、そこに耳を傾ける人々も手を差し伸べる人々も純度100%の信頼感で満たされていた。そしてアンコールラスト「White Days」が、友愛の輪を広げたように鳴り響くとNozomiが描いた音楽へのラブレター「Everything Goes Back to You」のショーは、多幸感に満たされながら幕をゆっくりと閉じた。ありがとう。
<Nozomi Nobody Official Website> http://nozomi-nobody.tumblr.com/
Source: https://sams-up.com/feed/