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「やっぱりちゃんと日本人のヒップホップをやらなきゃいけないなって改めて思った」【ライムスターMummy-Dの、POP LIFE手帳】

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■ヒップホップに切ないメロディを求められても……

ライターM DJ KOMORIさんに取材にする機会があったんですけど、今年に入ってからお客さんの踊るBPMがまた90~100くらいになってきたらしくて。

Mummy-D へぇ~、面白いね。ヒップホップは常に新しいビートを求めてるからね。ネプチューンズとかティンバランドが新しいことをしまくってた時期があったけど、それも1段落しちゃったし。次に何が出てくるのかな~と思ってたら、もっと変なのが出てきた。そこにはカニエ(・ウェスト)の影響もあると思うけど。でも常に新しいものを求めてるっていうのは、非常にアメリカンな考え方だよね。

ライターM アメリカって新しいアプローチの音楽がちゃんとヒットチャートに反映されるのがすごいと思って。

Mummy-D 本当にすごいよね~。

ライターM 2004年の曲ですけど、Snoop Doggの「Drop It Like It’s Hot ft. Pharrell Williams」って曲が全米1位とかになった時、本当に驚愕したんですよ。実は僕はその当時、ヨーロッパのアンダーグラウンドなビートミュージックとか、アヴァンギャルドなハウスとか実験的な音楽ばっかり掘っていたんです。そしたら、そのどれよりも実験的な曲が世界で1番売れてしまったという。

URL: youtu.be

編集Y 「こんな音数少ないの!?」みたいな(笑)。

ライターM そうそう! ああいう新しいサウンドが流行るかというと……。

Mummy-D 無理だよね~(笑)。この日米の違いについては、ずーーーーーっと考え続けてる。

ライターM もはや「アメリカではヒップホップが受け入れられてるから」云々の話ではないと思うんですよ。「Drop It Like It’s Hot」はポップミュージックとしてギリギリのラインというか。むしろ僕はアウトのような気すらする。最近のミーゴスにしたってそうですよ。もちろんいろんな文脈があって人気爆発したのはわかるけど、客観的に聴いても音として変すぎる。チャンス・ザ・ラッパーとかケンドリック・ラマーとかが評価されるのは理解も納得もできる。でもそういう人たちはどちらかというとチャートアクション的にはそこまでで。「アメリカどうなってんの?」っていう。

Mummy-D これは宇多さんからの又聞きなんだけど、小林雅明さん曰くアメリカ人はトラックをあんま聴いてないらしいんだよね。圧倒的に歌詞なんだって。彼らは自分の国の言葉だからダイレクトにラップの意味がわかるわけじゃん。だから割とトラックのことは話題にならないらしい。

でもそれって俺らはわかんないじゃん。なんでこんな単調なビートの曲がウケるのなかって思うけど、歌詞を聞き取るって意味ではそっちのほうが良くて。

編集Y その理屈でいくと、確かにそうですね。

Mummy-D 一方で逆説的になっちゃうんだけど、アメリカ人にはビートを聴いて楽しむという文化もある。ポップスでもビートは強いし。70年代のソウルとかを聴いても、日本の歌謡曲よりドラムがビシッとしてるじゃん。リズムを楽しむっていうか。

ライターM リズムを楽しむ文化があるっていうのはデカいですね。

Mummy-D 「俺、何度聴いてもヒップホップは好きになれないんだよ~」って人が日本人には少なからずいるんだけど、そういう人は大体ヒップホップに切ないメロディとか叙情的なものを求めてて。それは根本的に違うじゃん。「そこを味わうんじゃないから」って。でもやっぱ日本人には叙情的な感覚がDNAレベルに刷り込まれてるんだと思う。

ライターM 確かに民謡とかはリズムを聴く感じではないですよね。そうなると、日本でヒップホップをやることって改めてすごく難しいですよね。だって日本人らは英語のラップがわからないから、聞こえのかっこよさを追求してフロウを工夫するわけじゃないですか。一方でアメリカ人は歌詞しか聴いてない。じゃあ日本のヒップホップの落とし所はどこなんだっていう(笑)。

Mummy-D そうなんだよ~。もう大変です(笑)。

■日本人のヒップホップをやらなきゃいけない

ライターM 僕、最近ようやくApple Musicに加入したんですよ。そしたらもうすごい音楽体験が待っていまして。聴き放題最高ですね。

Mummy-D アーティストの立場から言うと制作に対する考え方がものすごく変わった。俺もサブスクリプションサービスに加入して音楽を聴いてるんだけど、最初はショックだったもん。

ライターM CDってアルバムだと1枚大体3000円で、世の中的には大きい額じゃないかもしれないけど、僕にとってはけっこう勇気が必要な金額なんですよ。3000円払って買って、良くなかったら嫌だし。そうすると怖くて買えない作品が多くて。でもサブスクリプションサービスだと、躊躇なくすぐダウンロードして聴けちゃう。その世界観はCD世代の僕からするとすごくて。同時にアーティストに求められるものはすごく多くなったと感じました。すげー良くないと聴かないなって。

Mummy-D ……そうだよね。いま次のアルバムは、曲数は少なくしようと思ってる。例えばApple Musicとかだと「Aリスト」みたいなおすすめのプレイリストに新曲が入るじゃない? そこで気に入ってもらえて、アルバムをダウンロードしようかってなった時に18曲とか曲数があると、聴くのを躊躇しちゃいそうじゃん。少なくとも俺はしちゃう(笑)。このタイミングに新作をリリースするなら、曲数は少なめのほうがいいかなって思ったんだ。あとジャケね。もはやアイコンじゃん。あの超小さいサイズで機能するようにデザインしないと話にならないから。

ライターM 多くの人は人気曲だけ聴いたり、お気に入りをプレイリストに入れて聴いたりする感じだと思うから、アルバムを通じてメッセージを伝える方法論が難しくなりそうだな、とかは考えますか?

Mummy-D アルバムとして良いもの作るアーティストもいるから、そこはリスナーもちゃんと聴いてくれると思ってるよ。全然悲観してない。でも「Aリスト」には日本のも海外のも一緒に新曲として紹介されるじゃない?

だからよっぽどむちゃしてないと埋もれちゃうなってことは感じた。勇気を出して面白いことに挑戦していかないと、その膨大な楽曲の中に埋もれていっちゃう。今まで以上に攻めていかないとなって思いはあるよ。

編集Y 確かに「Aリスト」の中で曲の国籍は関係ないですもんね。リスナーは純粋にいいと思ったものを気に入るだろうし。

Mummy-D うん。あと海外の曲と一緒に紹介されるから、逆に日本語をちゃんと聴かせないといけないと思った。

曲が始まった瞬間はどこの国の曲かわかんないじゃん。俺もジムとかで「Aリスト」を聴いてるんだけどいちいち画面なんか見てないから、イントロでつたない英語が聞こえてくると「あっ、日本人の曲か」とか悪い意味で感じちゃうんだよね。

俺がそう思っちゃってるのはマズいなと思って。やっぱりちゃんと日本人のヒップホップをやらなきゃいけないなって改めて思ったよ。

いつからか日本人のヒップホップ曲のタイトルがほとんど英語になったでしょ。アーティスト名も英語で、曲名も英語。逆に海外のアーティストの名前はカタカナで表記されてて。なんという逆転現象(笑)。プレイリスト上では国籍が関係なくなったから、逆に国際標準へ寄せていこうという考え方もあるだろうし。本当はそれがどっちも達成できれば一番いいよね。

ライターM やっぱりApple Musicはすごいプラットフォームですよ。本当にもっと早く始めてれば良かった。

Mummy-D でも音楽を所有する喜びはなくなったと思わない? 俺もApple Musicのおかげで若手の音楽にすごく詳しくなったけど、昔みたいに「聴く」というより「チェックする」という感覚になっちゃった。気に入った曲に「ラブ」とか付けちゃったりして。そうするとあいつらは似たようなタイプの曲をおすすめしてくるわけじゃない? でも「おすすめってそういうことじゃない」っていうか(笑)。

Source: Abema HIPHOP TIMES

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